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…お風呂


「まーくん、おいで」

「…う、ぅ…」


ぺた、ぺたとおそるおそる歩いていた足を、ためらいがちに止める。
裸足の下には、あったかい木材でできた床の感触。

今、おれは前の家にあったのより何十倍も大きい、大浴場って場所にいる。

前入ったところと違う。

壁も木材で出来てる。

それに、すっごい高そうな造りで、本来壁の場所のはずがガラス塀で囲まれていた。
外の景色が見えてて、夜なのもあって照明とかも灯ってて綺麗だった。

けど、こっちから外が見えるということは
おれの裸も、誰かがそこを通ったら、…丸見え、なのでは


「…や、だ…」


タオルで身体を隠しながら、頬を朱にしてふるふる首を横に振る。「…なんで?」不思議そうにするくーくんに眉を寄せ、むぅと睨んだ。


「なんでって、…くーくんは着たままなのに、おれだけ」


一緒にここまで来たくーくんは、何故か着物を脱がなくて。

おれだけだ。
こんな、裸になってるの、おれだけ。

むすっとするのもしょうがないと思うし、何より一緒に入ろうって言ったのはくーくんのくせに、納得できない。

理由をのべよ、と叩きつけた挑戦に、…す、と逸らされた視線。

「だって、」と言いにくそうに口ごもって


「…こんな明るいところでまーくんに見られるなんて…恥ずかしすぎる、だろ…」

「っ、な゛、…!」


照れているように伏せた睫毛を震わせ、僅かに染まるその頬に、「…っ、゛、」うあああやばい凄く格好良いのに可愛いのなにそれと内心また惚れてしまう。

くーくんの基準がわかんない。
ほんとわかんない。

あの、頭がくらくらするような大人なちゅーとか、おれの性器扱いたり、舐めたりとか、
…そういう、えっちなことの方が恥ずかしいと思うのに、前も間接ちゅーとか、今のとかで、なんでそういう反応するの、なんでそこなの…!


「それに、俺はさっき入ったから」

「……っ、」


ズキ、と胸が悲鳴を上げる。

上げて一気に落とされた気分に、余計に打撃を食らった。

ずっと前からそうだったけど、度々くーくんは用事でいなくなることがある。
…何をしているのかは知らない。
というか、知らない方が良いと思った。

澪と、いることは分かり切ってるのに、わざわざ自分から傷つきにいく理由はない。


「ほら、洗ってあげるから。おいで」

「…ん…」


差し伸べられる手に、頷き、にへらと笑う。
ひとつひとつ優しく丁寧に洗ってくれるけど、心の中はぐちゃぐちゃで、気持ちは全く現実に向いていなかった。
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