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……

………………


ずっと見えない場所をさまよって、走って、はしって、

…手を伸ばす。


「…くー、く…」


ぎゅって服を掴んで、瞼を開けた。
薄くぼんやりした視界と、見上げれば嬉しそうに笑う声音。


「目が覚めて、一番最初に呼んでくれるんだ」

「…っ、ん、」


ふわりと頬を緩めて、大好きな表情できゅって手を繋いでくれる。
惹かれる気持ちに駆られて、もう片方の手を持ち上げた。

ね、おれおかしいのかなって、言いたいのを堪えて口を結ぶ。
世界の、ほぼ全てが空白だった。

何か、忘れていることがあるはずなのに、思い出せない。
くーくんしか、わからない。

ここでくーくんに会う前、おれはなにをしてた?

そうだ。お父さんってどんな人…?
さっきまで、何してたっけ。

ちぎれてちぎれた記憶が、時々消えて可笑しくなる。
薄ぼんやりとしか思い出せなくなる。

どうして記憶より手が大きくなってて、傷だらけで、
くーくんが、記憶より、

どうして、そんなに大人の男の人、みたいに、…

(…違う、違わない、)

あの時も、今も、くーくんはくーくんだから。


「…一緒に、いてくれた」

「うん。約束したから」


けど、隣には寝てなかったらしい、何故か布団の傍に座っておれをみおろしているくーくん。


「ふへ、」


伸ばした手で、その頬をさすさすする。
冷たくて、綺麗なほっぺ。

ちょっとくすぐったそうな顔をするくーくんが可笑しくて、笑っちゃって。

こんな時間が、ずっと続けばいいのにな。

そう思ったら、ぽろぽろとなんだかわからない涙が溢れた。

……全部、崩れていく音がした。


「こわい、夢見て、…おれ、くーくん以外わからなくて、皆、顔が真っ黒で…、」


怖い。怖い。怖い。
わからなくなる。

嫌な、夢ばかりを見る。

だれ、だれ。
見るどの人も知らない。知らない人ばっかり。

なのに話しかけてくる。
偽物もいて、お前のせいだって責めてくる。
手からすべてが砂になって落ちる。
砕けて、割れて、殴られて、拒絶されて。
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