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泣きながら震える手を伸ばした。
なみだで溢れる世界で、必死に求めて、
「…っ、ぁ、」
抱き締められた。
身体を包む体温に、…瞬間、力が抜ける。
安堵し、身を預けた。大好きな甘くて優しい良い香りでいっぱいになる。…呼吸が、できた。
「……ごめん、…」
首筋に顔を埋め、切羽詰まったような声が耳元でする。
「…どうして、くーくんが謝るの…?」
「俺が、まーくんを守るって約束したのに、」
子どもの時に交わした契り。
俯き、いつもいつも昔の重荷を振り返って、自分を責めている彼の手に触れる。
指の間に指を差し込み、手のひらを重ねれば、彼は泣きそうな表情を浮かべた。
「大好きなくーくんに、また会えただけで…おれは幸せすぎるから」
「…っ、」
「記憶が、…っ、ぐちゃぐちゃで…でも、くーくんだけは特別、だから、わかるんだよ…」
くーくんしかいない世界。
ぽっかりと空いてる継ぎ接ぎだらけの過去。
他の人のことはわからない。…自分がどうやってくーくんと別れてから過ごしていたのか、誰と友達だったのか、ほとんど思い出せない。
ぎゅ、って腕を回して縋りつく。
震える声が、熱を増す。
「おれには、くーくんだけだから…、」
夢で、おれはくーくんに見てもらえない。
傍にいるのに、喉がおかしくなるほど声をかけてるのに、
彼はおれじゃなくて、…別の人を選ぶ。
(…ああ、そうだ、)
…夢の中でまで、
くーくんは 澪の手を、とって
「怖い、の、やだ……、助けて、くーくん…」
助けて、と彼の着物に瞼を擦りつけるおれは、弱くてみっともない。
くーくんにばっかり頼って、また、…彼の重荷になってるとわかってるのに…縋りつくことをやめられない。
こうすることでしか、繋ぎとめる術を知らない。
くーくんがいれば生きていける。今日もおれはここにいるんだってわかる。…生きてていいんだって思える。
(…っ、ごめん、ごめんなさい…)
「…キス、して」
求めれば優しく重なる唇に、胸が苦しいほど締め付けられて涙が零れた。
―――――――――
きっとくーくんが今こうしたいのは、
おれじゃなくて
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