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顔を伏せ、声を押さえて涙を零す。
ばかみたいに泣きじゃくりながら、浴衣がぐしゃぐしゃになるほど…指先が真っ白になるほどその胸元に縋りついて懇願する。
「…っ、や…だ…っ、いやだ…っ、!!!!」
おれだってくーくんが好きなのに。
おれの方が、…くーくんのこと好きなのに。
……おれのほうが先に、くーくんを好きになったのに。
どうして
どうして
どうして
どうして
嫌だと拒む隙も与えず、唇に血が滲みそうなほど無茶なキスをして、舌を入れる。無理矢理粘膜を擦り合わせれば、…ああ、くーくんだってその存在を感じ取れる。
今までなら、それで充分だった。
好きな人がいてもそれでもいいって思えた。
気持ちのないキスでも、くーくんが相手なら、…嘘でも答えてくれるなら…それでも良いって思った。
…それなのに、
「……(…痛いのが、止まらない…)」
…それどころか、もっとひどくなる。
激痛が走り、さっきよりもっとずっとつらくなった。
安心したいのに、悲しみを消したいから今こうしているのに、濃度が増せば増すほど痛みは広がっていく。
痛い、痛い、痛い、もっといたい、いたいの、いたくていたくていたくていたくて苦しい、こんなの、もうやだって、もう限界だって、……ずっと、思ってるのに。
……頬をとほうもなく伝って、絡め合っている舌や口の中に零れる涙の味ばかりが現実を刻んで。
あれは全部嘘じゃないんだって。
澪が言ってたことは全部本当なんだって。
思い知らされる。
…だって、まだくーくんが否定してくれない。
「嘘だよ」って困ったように笑って頭を撫でてくれない。
(……どうし、て…?)
言葉にできない感情をぶつけるように
息づきできないくらい、くーくんにしがみついで口づけを深くした。
舌を絡めても足りない。
どれだけ擦り合わせても、…呼吸を、体温を奪い合っても、…もうどうしようもないぐらいに苦しい。
「なんで、違う、って、いっで、くれない…の…?」
身体を離し、俯いたまま涙を零す。
舌に残る感触は、空しく行為だけを残して終わる。
くーくんの浴衣を掴む指先は真っ白になって震えていた。
早く否定して。
いっぱい言い訳してほしいだけなのに。
「……っ、…澪としてないって…、言って…」
お願い…だから、
「…おれが、いるのに、」浴衣を掴んだ手に更に力を込め、涙を途方もなく零す。
「”まーくんがいるのに、他の人とえっちなんかするわけない”って言ってよ…っ」
泣きながら、悲痛を滲ませた罵声を投げつけた。
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