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視線の先を見て、その変化の訳を知る。
「一緒に帰ろうと思って待ってたんだけど、…お邪魔だったかな」
「ほら、だから待ってても意味ないって言ったでしょ。最近睦月と真冬くん仲良いんだから」
「……」
教室の扉の前。
冷たく整った顔をした彼が、隣にいる彼女の言葉に少しだけ表情を変化させた。
「え、仲良い…ってそりゃあ同じ委員会仲間だし。でも私たちはそういう関係じゃ」
違うよ、と否定する吉原さんに、俺はまだこの状況についていけていない。
さっき吉原さんに組まれていた腕は離された。今のこの状況ではむしろ、蒼の腕に抱き付いて唇を尖らせているその女子の様子を見ると、邪魔者はこっちなのではと思える。
「…まーくんは、何も言わないんだ」
小さく零された声と同時に物憂げに軽く伏せられる瞼。
何かを求めるような蒼の言葉に、何を返したらいいかわからずに俯く。
「さっき言ってたこと、今日で良いよ」
「え、本当?!」
蒼が何かを了承する言葉を向けると、歓喜に染まった女子の声と表情が瞳に映った。
(言ってたこと…?)
「じゃあ、また明日」
いつもなら俺が別の人間と帰ることを好まないのに、今日に限ってはやけに容易に絡まった視線が逸らされる。
どう見てもカップルとしか見えない二人の後ろ姿に、俺はどうすることもできずに立ち尽くすことしかできなかった。
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