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聞きとれなくて、そう疑問の声を上げると視界が少し暗くなる。
布越しに、蒼が上から自分を見下ろしているのだろうと思った。


「ふぇら、よかったんだろ?気持ちよさそうな顔してたもんな」

「…っ」


よしよしと髪を撫でられて、嫌に怖いくらいの優しい声で囁かれてゾクリと背筋が寒くなる。
でも気持ちとは裏腹に、身体はその手が髪を優しく梳く刺激だけで痺れるような快感に震えた。そんな些細な行為によって性器の尿道に精液が勢いよく駆け上がっていく。


「ぁ…ッ、ぅあ゛、ぐ、……っ!!」


びくっびくって腰が跳ね、痙攣する身体をベッドに預ける。
まだ下半身が甘い余韻を残している。息が荒い。汗でびっしょりになる。

……あれだけで、イッた。

頭をなでられただけでイってしまった。自分の身体が怖い。

なんで。なんで。なんで。
身体は熱いのに、心だけがどんどん暗くなっていく。

信じられない。


「――――ッぁ、」


おかしい。こんなの、絶対におかしい。
唇をかみしめて、でも遅れてその言葉の意味に気づいて、震える唇を動かした。


「…なん、れ、…しっ、て…、」


蒼が来た時には、された跡はなかったはずだ。
俺が…、その、出したやつはあの男が、全部飲んでたし。

だから…蒼には、犯されそうになったところしか見られてないはずで。



「あれ、言ってなかった?」


わざとらしく驚いたような声が、笑いを含む。



「あの部屋、最初に入った時からずっと監視カメラがついてたんだけど」

「…っ、さい、しょ…?」


頬を撫でられて、変な声が漏れそうなのをこらえながら、問う。
その言葉の意味を理解して、身体全身から血が消える様な錯覚に陥った。


「全部見たよ。まーくんが殴られるところも、まーくんが男に咥えられるところも、まーくんが咥えてるところも、………まーくんが、自分から鍵を開けるところも」

「…っ、」


ひゅっと、喉の奥から呼吸になり損ねた音が出る。
身体が、震える。




「――――なぁ、そんなに”しゅんすけ”クンが好き?」

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