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出ていくって言ったくせに、最後の繋がりまで消えてショックを受けている自分がいることに気づき失望した。
…これで、本当にここにはもういられない。
ついに、くーくんからも不必要の烙印を押されてしまった。
これから何のために生きればいいのかも、どこに行けばいいかもわからない。
けど、それでもふらふらと、何とか保っている意識で立ち上がり、…歩いた。
最後ぐらい何か言って終わりたいと、言葉を探す。
『ありがとう』?そんなのだめだ、おれにそんなこと言う資格はない。
『ごめんなさい』?今更許してもらえるわけないのに、そうして何になる。
…結局、ひどくありきたりなことしか、思い浮かばなかった。
「……ばいばい…、くーく、」
そう言葉を零し、障子に手をかけようとして
……ふわり、と温かい風が頬を撫でた。
不意に背後に感じた気配。
振り返る間もなく、
「…――っ、」
ぎゅう、っと
後ろから、抱きしめられる。
耳元で感じる、息遣い。
窒息するかと思う程圧迫され、密着する身体。
縋るように腕の中に閉じ込められて、…驚きに息を呑んだ。
おれを抱き締める腕。
その、濃い黒色の浴衣に、微かに雪を模したような柄がついているのに気づき
…こんな時でも自分の着ているそれと、おそろいみたいに見える柄に切なくなる。
「どこに行くの?」
「…どこって、」
抱き締められていれば、どうしようもないほどに心が焦がれてしまう。
おれを求めるように抱く腕も、背中全部に感じる身体の感触も微かな重みも体温も、頭のすぐ近くで触れる息遣いも、……全部、覚えてる。
それに…くーくんの、他の誰からも感じたことがない、一度覚えたら忘れられない…魅了されるような…甘くて上品で 優しい香りと
僅かに、桃の香りがして
「……行かないで」
「……ぇ、」
切実に、引き留めるような言葉に、…ドクッ、と心臓が大きく脈打つ。
「俺の傍にいて」
「……っ、また、」
そうやって嘘をつかれて、傷つくのはおれだけじゃない。
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