30
二人とも選ぶことなんてできない。
それに、どうせおれは最後には選ばれないから。
なら、今すぐにでも解放して楽にしてほしい。
…一時的にここにいるとしても…もしかしたら、おれが今くーくんにしたみたいに澪を傷つけるかもしれないのに。
おれを失くすのとは比べ物にならないほど、きっと澪を失うことを恐れているくせに。
そんな中途半端な優しさで、おれのために一緒にいようとしてくれなくてもいい。
もし、おれがさっきみたいに自分を抑えられずに澪に手を出したら、…くーくんは絶対におれを赦さないだろう。
……おれなんかより、尚更澪のことは手放せないはずだ。
だって、別れてしまったらそれこそくーくんの幸せも消えてしまう。
おれじゃ、だめだから。
その場所にいることができないから、紛い物の関係が苦しいから、もう耐えられないから、
おれは、くーくんの目の前から消えるつもりだったのに。
「いいよ。まーくんがここから逃げたいと望むなら」
「…っ、」
「でも、本当に俺がいなくても生きていけるの?」
見透かしたような台詞。
…違う。全部、確実に心のうちまで把握されてしまったいる。
びく、と僅かに震えた肩を、くーくんは見逃してくれなかった。
「そ…んな聞き方、ずるい…」
「好きだから、俺はまーくんがいないと嫌だよ」
頬を濡らす雫を、頬を包むようにして優しく触れて拭われる。
独占欲を露わにした台詞に、身を焦がすほど感情が揺れてしまう。
……それは、違う好きなのに、
わかってるのに、期待してしまう。
もしかしたらって
もしかしたら、未来があるのかなって
「…なのに、出ていくの?」
「だ、って、おれは、」
吐息が触れるほど近くで見つめられて…、こく、と勝手に喉が鳴る。
変わらず今まで見た誰よりも遥かに綺麗で、大好きな顔。
こんなふうにされたら、どうやったって勝手に怯みそうになってしまう。
……流されるな。怯むな。
もう、くーくんの前からいなくなるって決めたんだ。
だから、ぎゅっと目をつぶって、離れる。
「おれは…っ、」と決死の覚悟で発して、
「せっかく、今日から傍にいられるのに」
「…ぇ、?」
呟かれた声に、…続きの言葉が消える。
呆然と見るおれに、彼は少し黙って「まーくんの考えてる通りだよ」と答える。
「俺はまーくんだけじゃなくて、澪も捨てられない」
「……っ、」
わかってはいた。
[back][TOP]栞を挟む