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それでも、
こうして実際に目の前で言われてしまうと、想像以上の打撃があった。
激しい、自我を壊しかねない程の感情が悲痛を叫ぶ。
心臓をうねらせ、慟哭な悲鳴を上げた。
「なら、…っ、」
「けど、」
涙声で詰め寄るおれの言葉を、彼は遮る。
「どうしても外せない用事の時以外は、澪のところには行かない」
「……っ、」
「今までみたいに何日もしなくなったりしない。まーくんがいてほしいって望むなら、一緒にいるよ」
うそだ。
こんなの、うそに決まってる。
……甘い台詞で誘惑してくる。
せっかく逃れようとしたおれを、引き離さないようにしてくる。
「それなのに、俺の傍からいなくなるの?」
「…っ、うそ、」
「嘘じゃない」
「……ほん、とに…?」
震えるおれの唇から零れた問いかけに、「うん」って肯定を示し、手をきゅって、握られる。
『くーくんといっぱいセックスしてた』
澪の言葉を思い出して反射的に身を引こうとするが、ぎゅって強く絡めた指は簡単には離れてない。
「…っ、だ、だって、くーくんには、」
澪が、いる。一番は澪のはずだ。最優先は澪のはずなんだから。そんなことできるはずがない。
きっと、そんなことを澪は認めない。
さっきの様子を見ても、認められるとは思えない。
それに、おれに今の状況を我慢しろってくーくんは言いたいのか。
そんな酷いことを言うのか。
澪を好きなくーくんを傍において、二人を引き裂いている自分を実感させて、別の人に想いを寄せる好きな人を近くで見続けさせて、これ以上の苦しみに耐えろって言うのか。
くーくんは、おれより澪が好きで、必要としているんだから、って、また緩む涙腺に唇を噛み、自分を納得させる理由を探す。
けど、
「今日俺が澪とここに来たのは、まーくんが出ていくためじゃない」
「……っ?どういう、意味…?…じゃあ、なんのために、」
「まさかあんなふうに言うとは思わなかったから、こんなことになっちゃったけど」と瞼を軽く伏せ、そう零したくーくんは、視線を逸らす。
「屋敷内を自由に歩けるようになったって、言いに来たんだよ」
「……ぇ…?」
その先を追えば、床にある枷に向けられている。
何も考えがまとまらず、答えも用意できない。
…と、
「まーくん」
「…っ、え」
おれを呼ぶ声。
声に顔を上げれば、静かに唇が重なる。
柔らかい感触に、息が止まった。
「…――――っ、」
永遠に感じる数秒。
驚いている間に、ゆっくりと吐息が離れていく。
「…な、に、…っ、今、」とやっとできた呼吸で責め立てようとして、できなかった。
縋るように背中にまわされた腕に、息もできないくらいに強く抱き締められる。
「…――――本気で俺を澪から取り戻したいなら、全部捨てて…死に物狂いで奪って」
震えを堪えている、切実な声。
「まーくん、お願いだから、…頼むから、」
「…っ、」
掻き抱くようにおれの身体を閉じ込めて、狂おしいほどの感情を込める。
「俺を、捨てないで」
その、……泣きそうに懇願する響きに、おれは…今度こそ言葉を失った。
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