飼い殺し

***


「食べないの?」

「……食欲ない」


返事しないでいようと思ったけど、…そんなことできないから、小さく無気力に答えた。

くーくんがさっき作ってくれた、鮭定食みたいな豪華なセット。

怪我か何かでうまく利き手が動かないのに、おれのためにと用意してくれた。
いつもいつも、なんだかんだご飯はくーくんがそうやってくれるから、なんだか申し訳なくなる。

以前聞いたらこの屋敷専属の料理人?がいるらしいから、もし準備してくれるなら、その人に作ってもらった方が良いんじゃ…と言うと、


「何。そっちの方がいいの」

「…だ、だって、」

「俺のより、他のヤツが作った料理が良かった?」


なんて、拗ねたようにふてくされてしまったから、「…ごめん、違う、けど」と力無く首を横に振る。

「食べ物に嫉妬してるの?」と聞けば、「…うん」とあっさり認める彼を、前みたいにかっこいい可愛いと悶えて、心のままに笑うことができない。

あたりまえみたいに「口あけて」って『あーん』をしようと箸で掴んだ鮭の一部を差し出してくるくーくんに「自分でやるから、」とお箸をもらおうとすると「こんな重いもの持たせられないよ」と拒否された。

……箸が重いって、どういうことだと言いたい気持ちはあったけど、言い返す気力すらない。


「俺の作ったものがまーくんの一部になるって、すごく嬉しい」

「…なんで、くーくんそんなに楽しそうなの」


なんの躊躇いもない甘く蕩けるような笑顔に、……視線を奪われ、心臓をわしづかみにされる。


「だって、さっき熱くてびくって舌を引っ込めた時のまーくんの顔、めちゃくちゃ可愛かったから」

「……っ、」


騙されるなと、自分を叱咤する。
いちいち動揺しちゃだめだ。
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