10.5
――それは、絶対に思い出してはいけないものだった。
風呂場で待っている間に、おれ、は 見てはいけないものを、見た ?
あの日、くーくんと出会ったあの日から、おれはずっと一緒にいるのに。
離れたことなんか一度だってないはずなのに。
――――――白衣、
白い部屋、
性器、
開かされた股
揺れる身体
『くーくんがこれを知ったら、君を嫌いに』
叫んだ。
声を出した。
世界が狂った。 こわ れた。
誰かわからないけど、縋りつく。
そうしたら抱き締め返してくれて、頭を撫でてくれた。
「…っ、嫌われ 、な 、捨 ら た 、ない゛、!」
「うん、嫌 になってな 、捨て いから…っ、」
傍にいる、離れない、と誰かの声がする。
必死に、おれを繋ぎとめる声が、身体が、微かに震えている気がする。
切なげに、苦しそうに、おれを求めてくれる。
わからない、全部もうわからない、世界が狂ってる。
頭が狂ってる。
何かを壊して、傷つけて、散々暴れた後、…疲れ果て、その腕の中で意識が閉じた。
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