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くーくんにとっては、些細な一言なんだから、気にしちゃだめだ。


「どうせ、おれより澪にいっぱい言ってるんでしょ」


ぽつりと零れた本音に、一瞬しまったと思ったけど言葉は止まらない。


そうだ。
こんなの比じゃないはずだ。


「おれに言うくらいなら、澪にもっと言ってあげればいいのに」


嫌味っぽいし、性格悪い。
でも、もう口から出た言葉を取り出すこともできないから、諦めてごまかさずに俯くだけにした。


「まーくんは、俺に澪を可愛いって言ってほしいの?」

「…っ、…」

「澪を可愛がってても、何とも思わない?」


顔を背けたまま、返せない。
想像さえもしたくない問いかけに、心臓が膿を出す。


「それで良いって顔、してないけど」


全部わかってるくせに、そうやって言葉にされて余計に追い詰められる。

狡い。
狡い。
ずるい。


「俺のこと、最低だと思ってる?」

「……」


思ってないとは言えない。


「俺は、泣いてるまーくんも可愛いから好きだよ」

「…っ、なに、それ、…酷い、」

「澪に嫉妬して、怒ってたのも可愛かった」


涙の痕が残っているだろう頬を擽るように撫でられ、改めてペットみたいな扱いをされてると思い知らされる。


「…最低、」

「うん。自分でもそうだと思ってる」


言ってることが滅茶苦茶だ。
冗談っぽく、でも意味深な雰囲気でそんなことを言うから、流石に咎める。

けど、頬に触れている手がいつもより大分熱い気がして、違和感を覚えた。

確かに今日はなんだかいつもと違う気がするし、前より無防備な感じで、全然壁がないみたいに華が咲くような笑みを浮かべるから、無駄にドキドキしてしまう。


「最近、なんか変だよ」

「まーくんにはいつもこんな感じじゃない?」


その様子に、少し訝しむ。
もしかして、とその額に触れる。

……やっぱり、

そういえば昨日も、普段に比べて熱かった気がする。


「体調悪い?熱は?」

「ないよ」

「測ったけど平熱だった」と明らかな嘘を言うくーくんに、首を振る。

「うそ」と結構高いんじゃないかと額同士をくっつけて測ろうとして、その手を掴まれた。


「大したことないから気にしないで」

「……っ、でも、」


せめて体温計を、と誰かに聞こうとして立ち上がろうとすれば「他の人に持ってこさせようとしても無駄だよ。ここにはそんなもの置いてない」と全部先回りして拒まれる。


「それより、せっかく作ったんだからまーくんに食べてほしいな」


心配なのに、それ以上踏み込ませないようにさせる態度に何も言えなくなる。肌に触れさえしなければ普段と何も変わらないから、ただいつも通りにしか見えない。

でも今までのことを考えると、そう見えないように我慢している可能性もある。
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