3

どうすればいいのか判断できないまま箸で挟んで差し出された魚を少し躊躇って口に含む。


「熱があるかもしれないって思ったら素直に従ってくれるんだ?」

「……そういう、わけじゃ、」


ごく、と飲みこんで否定するけど、自分でもさっきまであれだけ嫌がってたのに今食べてるのはそれもあるんじゃないかと思った。

あんまり食べれなかったけど、デザートにアイスまで用意してくれてて、一口食べさせてもらう。


「キスしたいの?」

「…っ、」


ばれていたと思わなかった。
ご飯よりもそっちに気がいってて仕方がなかった。

必死に背けていたと思ったのに、詠まれていたらしい。


「今は舌が冷たいから、丁度いいんじゃない?」


数秒前までアイスを食べていたおれの口元を見て、ふ、と笑みを零すくーくんが拒む気配はない。


「もしまーくんが言うように熱が出てたら、移っちゃうかもしれないけど」


むしろそれを望んでいると感じてしまうような口調に対して、…彼のせいではなく、自分が要因で首を横にふるふると振る。


「……どうして?」

「くーくんは、おれのものじゃないから」


これでもせっかく気持ちを抑えているのに。
……キスしたら、全部溢れ出てしまいそうな気がした。

一度始めたら、止められないだろうことは考えるまでもない。


「まーくん」

「…っ、ぁ、…」


やわらかな微笑みを浮かべて目線を合わせてくる。
頬に触れる手と同様、…それ以上に熱く蠱惑的に感じる目つきと美貌に、逆らおうとしていた意思が彼の意のままに操られる。


「俺にも、冷たいの食べさせて」

「……っ、」


頬の熱を上げ、…こく、と喉を鳴らしたおれは、諦めて瞼を伏せた。

……結局、反抗なんてできるわけがないんだ。



――――――――――――――――


どれぐらいそうしていたのか、覚えてない。


「ふ、…っ、んん…っ、」

「……は…っ、」


何度目か、熱すぎる粘膜の温度を下げるように、舌でアイスを溶かしながらくーくんの舌に擦りこむ。

びっくりするぐらいやっぱり触れ合う舌が熱くて、すぐにぬるぬるになってしまう。
ひりひりするぐらい口の中を冷たくしたのに、温度が上がるのは一瞬だった。

(……気持ちいい…)

そのためにしている行為じゃないのに、どうあがいてもくーくんとキスしてるとお腹の奥がジンジンしてきて、脳内麻薬みたいにぼうっとしてしまう。

…けど、それだけじゃない。

もうずっと、そうだった。
気持ちいい以上に悲しくて、だからこそもっと性的な興奮でいっぱいにすればこれ以上考えなくて済むはずだからと濃く絡み合った。

甘く混じった唾液を飲み込み、舌の腹同士を擦り合わせて濃厚に絡ませあいながら零れた唾液が顎に伝う。
くーくん自身も冷やしたいのか、しゃぶるように舌を舐められて吸い付かれまくって変な声がいっぱい出た。


「まーくんの舌もアイスと同じで『そういう食べ物』みたい」

「…っ、はぁ、…ふ…っ、こわい、よ、それ…」


息を切れさせながら、見上げる。

ぺろ、って唇の端を舌で舐める彼の仕草さえも目のやり場に困るほど厭らしく官能的でしかない。
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