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下半身が疼き、痛いほど硬さを増して反応しているのを感じて、もぞもぞする。
話を逸らそうと「くーくん、」と呼びかけた。


「その、着物の柄、」

「あー、これ?やっぱり、まーくんとは御揃いが良かったから」


澪を好きになったのに、そこは変えないらしい。
嬉しいやら悲しいやらで滲む感情に顔を背けた。


「澪、とも、あるの?」と、また余計なことを口にすれば、「何を?」と聞かれ、「御揃い、」と呟くと、「…うん。あるよ」と肯定の返事に自分勝手に傷ついた。

まるで、何もなかったみたいに振る舞っているけど…節々に感じる澪の存在が心臓を狂わす。

……世界に、二人きりじゃないから。
くーくんがどれだけ一緒にいてくれても、この屋敷のどこかに澪がいる。

思考の片隅でずっとそれを意識してしまって汚染してくる。

今おれがくーくんといる間、澪は何してるのかな、とか。

……これも全部、澪としたことなのかなとか、


「くーくんは、おれに何を望んでるの…?」


今のおれは彼の期待しているものではないと、彼は言っていた。
それに、澪とおれのどちらか一人も選べないけど、……捨てないでほしいって言ってた。


『本気で俺を澪から取り戻したいなら、全部捨てて…死に物狂いで奪って』


なんて、どうして、……そんな残酷なことを言うんだろう。

できるわけないって知ってるはずなのに。

愛し合う二人を傷つけてまで、引き裂いて得られるものなんかないってわかってる。
そうまでして、手に入れた物はきっと空虚でしかない。

おれじゃなくて、他に好きな人がいる人を私利私欲で奪って、閉じ込めて、それが一体何になるんだ。

くーくんの望まないことを、無理にすることなんておれにはできない。

でも、引き留めるだけの価値がおれにあると思えないからこそ、考えもつかない…何かしてほしいことがあるんじゃないかって思う。

……なら、おれはどうすればいいんだろう。


「何だと思う?」


逆に聞き返されて、言葉に詰まる。

わからない。
澪を好きならおれは別にいなくてもいいはずなのに、こうして傍にいようとするこの状況を考える。

…例えば、


「何でも従う……奴隷とか、」

「奴隷?」


自分で言葉にしていて、惨めな気分になった。
半分やけになってたから別に吐き出す言葉に意味はない。

「俺は奴隷なんかいらない」と返されて、…違う回答を探す。

じゃあ、と口を開いた。


「…くーくんと…澪、の、関係を…う、受け、入れれば、いいの?」


声にしたくなくて、うまく話せない。
笑顔で祝福すれば、くーくんも望むように行動できるってことなのかな。

おれが嫌だ嫌だと二人の関係を拒絶していたのがだめだった?

確かに、傍にいて、おれが心の底から幸せをお祝いすれば全部丸く収まるんだろう。

それとも、選べないくーくんの罪悪感を減らすために、強く拒絶してここを出ていくべきだったのか。


震える唇で導き出した答えに返されたのはさっきと同じ、否定だった。


「…っ、わかん、ない…っ、」


泣くつもりなんかなかったのに。
何十回泣くんだと、自分でもばかみたいだと思う。
こんなに泣き虫だったのかと思うくらい、また涙が出てしまう。

悩んで答えの出ない迷路をさまよって、余計なことばかり頭に浮かぶ。

嗚咽を堪えて涙を零していれば、彼は繋いだ手を優しく握って、真剣な顔に暗い影を落とした。


「ただ、証明してほしいだけだよ」

「…しょう、めい?」


何の、と問いかけた言葉に、彼は瞼を伏せて物憂げに口を開く。


「まーくんがどれぐらい、俺を愛してるのかってこと」


今更、それを示すことに一体何の意味があるのか。


――――――――

どうせ、澪には叶わない。

そうだとしても、求められれば多分おれは応えようとしてしまう。


(ありきたりな方法では、)

(きっと彼は満足してはくれないのに)
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