12

コンドーム、と干からびた唇が動く。


「……ゴ、ム、……つけて、……ないの?」

「どうして、つける必要があるの?」


震える問いかけに、不思議そうに尋ね返してくる。
おれの戦慄きに対して、彼女はそれを横目に自慢げに口を歪めて笑い、頬を染めた。


「ゴムなんて、そんな邪魔な避妊具するわけないでしょ」


ドクン、とその言葉に天地がひっくり返る。

実際には微動だにできていないのに、冷たい体温に身体が冷え、頭の中が真っ白になった。


「だって、彼の温かい精子がここを…子宮の中を満たすたびに、幸せを感じるもの」


行為自体、耳にするだけでも、目にしただけでも、叫び出したいほどの痛みだったのに、

……まさか、

まさか、そんな、それ以上に、 


「素肌で触れあって、全身で彼を感じたい。だって、私は望んでいるんだもの。彼を。彼という最高の人を。もっともっと深く彼を感じたい。愛されてるってもっと感じたいの」


興奮したように頬を赤らめている姿はまさに『女の顔』だった。

…そうだ。なんで、考えもしなかったんだろう。


「生でしてるんだから、わかるよね?」

「……っ、」

「男女がセックスで中出しを続けると、どうなるか」


くーくんの好きな人は、女だ。

なら、その可能性は充分あるはず なのに

『愛し合った証拠』

込み上げる感覚に耐えきれず、口をおさえる。

ゴムをすればいいわけじゃない。
それをつけていれば絶対にできないというわけじゃない。

けど、でも、していないとは思いもしなかった。


「……う……そ、だ、」

「嘘なんてつくわけないのは、わかってるでしょ?」

「……っ、」


これは、夢だ。

悪い夢で、雑音で、ノイズでしかない。
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