気づかない1

***

チュンチュンと鳥の鳴く声が聞こえて、ふと目が覚めた。

朝…?

呆然として、虚ろな視線のまま、相変わらず目隠しによって閉ざされた真っ暗な世界に目を向ける。

とりあえず何か言葉を発しようとして、唇を動かす。


「……」


出そうとしても、喉が引きつって声が出ない。
体中の水分がなくなったかのように、もう涙も出てこなかった。

俺、どうしたんだっけ…。

霧がかかっているような思考に、ふわふわとよく分からない感覚になる。

……5時間と言ったくせに、結局あれ以来蒼は戻ってこなかった。

後孔に入ったソレのせいで、もうわけがわからなくなった。
微かに振動するそれが動かなくなるまで。
動かなくなった後も刺激が足りなくて、本当に気が狂いそうで。

いや、きっと狂っていたんだと思う。

ただ、ひたすら喘いで、蒼の名前を呼んだのを覚えている。

呼んでも意味のない行為だと分かっているけれど、そうせずにはいられなかった。


「…………」


あと、途中から意識がトんでいたせいか、気がつかなかった。
いつの間にか後孔にあったものが抜かれていたらしい。
長い間挿れられていたせいか、すごく違和感がある。
そう思って、そこに意識を向けると、ズキリと鈍い痛みが走った。


「…(痛…ッ)」


身体を動かそうにも、指一本動かない。
体力を使い切ったのかもしれない。

それでも、あの快感で気が狂いそうだった状態が、今は驚くくらい冷静になっていて。
あの時に比べたら、今の方がずっとマシだとさえ思った。

……毎回思う。
どうして蒼はこんなことするんだろう。

多分聞いても答えてもらえないんだろうし、言われても理解できないかもしれないけど。


「……」


最近は特に蒼の様子が変で。

今まではこんなこと、蒼はしたりしなかった。
無理矢理抱かれることはあっても、俺をこんなに玩具で弄んで放置するような真似はしなかった。
……それは、抱かれるのとはまた違った意味で、つらくて、悲しい。


「…(なんで、)」


こんなことになってるんだろう。
…どうして、俺はこんなにも蒼に嫌われてしまうんだろう。

蒼は俺のことを好きだと言葉にする。

…でもその言葉は、ただの飾りだと俺にはわかってるから。


蒼は、
本当は――――


「……」


虚ろな思考で、答えの見えない問いかけをしながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


そのとき


「目、覚めた?」


……離れた場所にいるんだろう。
少し遠いところから、相変わらず凛と澄んだ声が聞こえた。
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