19

真っ白な空間にいる、彼だけが唯一のおれの希望。


「アイツにまたうまく調教されてんだな、お前」

「……ちょうきょう?」


聞きなれない言葉をなぞるように口にすれば、その通りだと頷く。


「飼い主の望むように動く。ずーっと、変わんねえまんまだ」

「……飼い、主…」

「お前の大好きな『くーくん』に決まってるだろうが」

「…っ、くーくんは、飼い主なんかじゃ、」

「否定しようが現実は今しようとしてることが全てじゃねえか。普通、『自分が現時点で被害を受けている』状況以外で人様を殺そうって思考にはなんねえんだよ。だから、お前の意思でそれ持ってきてるっつーことは無自覚にやばいとこまでもう来てるってことだろ」


「それにアイツに身体を甚振られてるわけでもねえのに包帯だらけで血に塗れてるのを見て考えるに、愛情を欲するためになりふり構ってねぇって感じか」と続けられる言葉に、何も返さない。


連ねられる言葉の意味が全く理解ができない。
けど、理解しなくてもいい。

してはいけないから。

ここで無駄に過ごしても仕方がない。


相手が動かないうちに、振り下ろせ、

早く、刺さないと


「あの時の逆で、今度はお前が俺を殺すんだな」

「…ゔぁ…っ、!」


伸びてきた手に、胸倉を掴まれ引き寄せられる。
体勢を崩し、ぎゅっと痛いほどに柄を握ったままの手を思わず遠ざけてしまう。


「はー、さっきからしらけるな」

「…い゛…っ、」

「いつまで寝ぼけてんだよ。家畜」


至近距離で、おれを見つめる切れ長の目。
やけに見覚えがある気がするその眼差しに、射抜かれる。


「御主人様、だろ?」

「…っ、」


ガンっと後頭部を殴られたような衝撃。
口の中に、どろっとしたものが滲んだ気がした。


「嬉しそうに犬みたいに俺様のちんぽをしゃぶって強請ってきたのも覚えてねーのか」

「――――……?!」


『ごしゅ、じ、…さま…っ、』


情けないほど舌たらずな、知らない声。
苦悶に腰を折り、吐き気を催す。

頭が、割れるように痛い。


「っ、ぁ、ぐ…っ、…お、おぼえて、な…、」


知らない。
しらない。しらない。

ガクガクと、ナイフを持つ手が異様に震える。
冷たい汗が滲み出る。
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