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冷えてきたし、そろそろ部屋に戻ろうという話になり、立ち上がる。

ふいに隣に視線をやって、ドキリと鼓動が跳ねて息を呑んだ。

蒼の整った造形は本当に、意思に反して心を狂わせてしまいそうな妖艶さがある。
以前に比べて最近は特に着物の胸元がはだけていて、包帯を巻いてはいるけど色々目のやり場に困るし、…求めてしまいそうになる。

何より、自分が刺した場所を見るのも含めて辛かった。


「ぁ…、くーくん、ここ、…もうちょっと隠して、」


間違えて呼びそうになって言い直す。
他の人に見られて、それこそ昔みたいに危ない目に遭ったら今よりもっと手に負えないことになる。


「なんで?」

「…へ?」


返された疑問に、ぽかんとする。


「なんで隠してほしいの?」

「…っ、それ、は、」

「公衆の面前で誘うなんて、大胆だな」

「……!!な、何、言って、そんなわけないだろ…っ、」


溜息まじりに呆れたように返され、思わず身体が熱を上げた。
今の言葉のどこがどう誘ったって言うんだ。
納得できないと反論する。


「そう男に勘違いさせるぐらい、今かなりエロい顔してるけど。意識した?」

「ち、違…っ、」


全部違うわけじゃないけど、そうだとも言いたくない。
クス、と魔性の笑みを零す彼に見下ろされ、猫を可愛がるように熱い頬をすりすり手で撫でられれば、ごぎゅ、と変に喉が鳴った。


「違う。身嗜みの問題」

「…素直じゃないな、まーくんは」

「っ、だ、…俺、は」


「ばればれ」と確実に赤くなっているだろう顔を見られてて、どうしてこうも身体は正直に反応してしまうんだろうと嫌でも恥ずかしくなる。


「そういうところも可愛いよ」

「……っ、可愛く、ない、」


さらりとホストみたいな台詞を囁かれて、頭から湯気が出そうだ。

……手の平でころころと転がされているようで悔しいし、脳裏にちらつく人物にやるせない感情が込み上げる。

自分では絶対に直す気配がなかったから、仕方なく手を伸ばして目線をそらしつつ着物を正す。

そうしていると、…高校の時にネクタイを結びあった時のことを思い出した。

『新婚の奥さんみたい』って話してたっけ。


「……?何か面白いことあった?」

「ううん。こういうのって新婚とかでありそうだなって考えてた」


漫画を読んでいたらほとんどと言っていいほどどこかに出てくる場面。
理想的な家族。想い合う夫婦。仲睦まじい関係。

『ありがとう』も『いってらっしゃい』も、きっとどこかの家庭では普通に見られる光景なんだろう。


「奥さんみたいって?」

「うん。そ、」


同じ思考回路だったことに笑って返しながら、……しまったと思った。

柄にもなく浮かれてしまった、と「ごめん、」続きを言われる前に謝る。

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