15

***


「…あめ…?」


頭を冷やしたかった。
そんな単調な理由で、部屋の出口と反対方向の大きなガラスの外側、縁側に座り、空を見上げていた。

ぽつ、と手にふわふわしたものがしみこむ。


「雪だよ、まーくん」

「……ゆき、」


手の平が、冷たい。
一つ、二つと降ってくると、もっともっといっぱい空から降り注いでくる結晶。

きっと、それはあっという間に庭を真っ白な世界に染め上げていくんだろう。


「覚えてる?」


何を、という声を聞く前に、続けた。


「『くーくん』に会ったのも、こんな日だった」

「……」


あんなに思い出せなかったのが嘘みたいに、今はつい最近あったことのように思い出せる。


凍えるような寒い冬の夜。
お母さんが待ってるって知らない顔の人に手を引かれて、辿り着いた先は公衆トイレだった。

いつもと同じことをされて、黙って耐えてた。
人生ってこんなもんなんだって絶望して、諦めてた。

全部事を終えて、とりあえず家に帰ろうと、よろよろ歩いていた時


……――――ゴミ捨て場で、彼を見つけた。


街灯の光の下。

目に映った情景に、息を呑んだ。
初めて身体全身に電撃が走ったような衝撃を受けた。

そこで眠っている黒髪の少年を見て、すごく…今までにないほどドキドキして目が離せなかった。

透き通るように白くてお人形さんみたいな顔。
それとは対照的に着物はぼろぼろで汚れていた。

……奇跡かと、思った。

神様が頑張って作ってくれたものを、おれの前に天使として落としてくれたんじゃないかと思った。

正直、最初は一瞬作られた物かと思った。

そう疑うほど美しすぎる外見に人間らしさを感じない。傍に寄って僅かに胸が上下しているのが見えて、……やっと人だと判別できた。

「ひとりじゃないよ」と握った手は傷だらけで、あまりにも冷たくて震えていて、

それなのにおれを見上げる顔には、感情と呼べるものはなかった。

まさしく、人の形をした綺麗な御人形。

涙を流しているのに、泣いてることにさえ気づいてなくて、
その時、初めて彼は人なんだと気づけた。


その『くーくん』が、結婚する。
本当に好きな人を見つけることができた。

……俺が、応援しないわけにはいかない。

反する欲求を無理やりに押さえつけて、飲みこまれないように神経をとがらせる。
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