3

支度を終えた後、慣れた動作で抱き上げられる。
足が宙に浮いて不安定になる。
腰の上と腿の下あたりに差し込んだ腕によって俺の身体を支えながら、蒼はどこかに向かって歩き出した。


「……(…どこに行くんだろう)」


ミシミシと木の板のきしむ音。
ただ、蒼の歩く音だけが聞こえて、その歩く振動だけが伝わってくる。
肌ごしに感じる体温に、少しだけ息を吐いた。

本当はこんなことをされることも、嫌で。

…その嫌なことをしようとしてくる蒼が近くにいることも。

嫌なはずなのに。
本当に、どうしようもなく嫌なのに、

ずっと一人でいたと思っていたせいかもしれない。


「………」


誰かが傍にいる安心が、ぬくもりが、嬉しいと感じてしまう。
幸せだと感じてしまう。

そんな風に感じてしまう自分に、自然と瞼を伏せた。

…これから蒼がどうしたって、俺はもうどうにもできない。

身体も動かない。

抵抗することができないなら、いっそ嫌だとも思わずに受け入れたら、きっと楽になれるんだろう。
腿の下を支えている手に力が込められて、少し身体が傾いた


………直後、


ガラッ。

扉を開いたような音がして、その瞬間ふわりと冷たくて、肌を刺すような空気が身体に染みわたる。


「…、(―――――…え)」


寒いと感じる懐かしい感覚にふと息を吸ったその瞬間、風に混じって鉄分を含む、血のような匂いが漂ってきた。
べたりと肩に何かが触れる。



「…(…なに…これ、)」」


(……あったかくて、ぬるっとする)



なんだろうこれ、と虚ろな思考でそう考え、呆然としていると。
彼は何を思ったのか、頭上でいつもと同じ…なんてことないような口調でさらりと声が答えた。



「心配しなくてもいいよ。それ、俺の血だから」

「…(…え?)」



オレノ、チ?

別に気にするようなことでもない、というように淡々と言われたその言葉に、一瞬思考がおいつかない。

………なんで、蒼が怪我してるんだ。

見えないけど、……これが血だとするなら
このべっとりとした感触から考えると、とんでもない量の血が流れているはずで。
そのぐらいの血が流れているのに、何故こんなに口調が、歩みが、いつもと変わらないんだろう。
心配しなくていい、という言葉の意味が分からなかった。

氷を胸に当てられたようにひやりとする。
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