あと、
***
充満する甘ったるい香り。
和室の隅に置かれている暗い夜を想わせる高級そうなお香を立てる器と、そこから立ち上るゆらゆらとした煙はあまりにも幻想的に思考を侵していく。
「…っ、…は、…ふぁ、…ぅ、」
対面で軽く股を開くようにして膝の上に座り、その肩に手を置いてむさぼるような口づけを交わす。
お互いの粘膜を撫で、行く当てのないキスを続ける。
「ごは、ん…、冷めちゃう、から…」
肩を軽く掴み、ほとんど力なく押せば背中に回されてる腕に留められる。
着物を乱すように隙間からいやらしい手つきで忍び込んでくる。
誘うように薄く開いた形の良い唇と、再び口の中を犯すくらくらするような深い絡み。
軽く太腿で相手の身体を挟むようにして膝の上に乗ってるせいで、着物だから簡単にはだけている。
開いた股の間で……キスだけで濡れた亀頭が擦れて、蒼の腹部あたりの着物に染みて汚してしまっていた。
「…っ、ごめ、ん…俺、おりる…」
「だめ」
膝の上から立ち上がろうとして、背中に回されている腕にぎゅってされた。
「…ぅ、う、…」
どっちにしても今までしていた行為のせいで震えて足腰立たなくなっていたから、うまく逃れられたかもわからないけど。
「ん、ん…っ、ひゃ、ぅ…っ」
首筋を舌先で撫でられ、触れた箇所が熱を持ったように一際熱くなる。
今日何度目か、華を咲かせたその箇所に彼は満足そうに微かに笑う。
「やっぱり、……舌…あつい、」
「俺だけじゃないだろ。熱いのは」
体温と湿度の高い吐息まじりに紡がれた言葉に、……目を逸らす。
「……そうかも、…しれない、けど…」
俺も身体が熱いとは思うけど。
蒼とどっちの方がと比較すると両方とも擦り合わせてると嘘じゃなくてほんとに溶けちゃいそうに熱くて、比較できない。
際限のない喉の渇きを癒すために、呼吸をするために口づけをする。
けど、そのたびにもっと渇きは濃くなって、余計に物足りない感覚が増すばかりで。
今だって心臓が破裂しそうなぐらい鼓動が速い。
下腹部がきゅうきゅうして、恋とかそんなあやふやなものじゃ留められないほどドキドキが止まらない。
堪えなければならないのに、触ってほしくて仕方がなくなる。
お香のせいもあるのかもしれない。
部屋の中が僅かに白みがかっているような気がして、余計にとても尊く、目を離せば蒼がいなくなってしまうんじゃないかと不安になるほど危うげに感じて、縋るように口づけを繰り返した。
舌を交えるたびに残る感触と混ざり合って零れる唾液、乱れる呼吸は満足して終わるということを知らない。
目の前にある彼の綺麗な肌、美しく艶やかな黒髪、冷たさの中に色気を感じさせる目つきや薄く形の整った唇にゾクゾクと身体を震わせ、火照らせてそれ以外何も考えられない。
(……はやく、はやく、……昔みたいにわけがわからなくなるくらいキスして、乱暴に抱かれたい)
「……くーく、んのために、料理したのに」
多分、もう今頃ほかほかに温かかったはずの白米も固くなってしまっているはずだ。
湯気など全くない食卓…机の方を見た。
けど、料理と口にしたのは言葉ばかりで、本当はどうでも良かった。
ただ構ってほしかっただけ。
今したばっかりなのにまたキスしたくなってる。
呂律も回りにくいけど、最近はそれが普通になっている。
頭がうまく働かないから、そんなの気にならない。
「まーくん、」と俺を呼ぶ声に反応して振り向く。
と、
「あーんして」
「……っ、わか、った」
生まれたての鹿のように震える手足で机に近づき、何を食べてもらいたいか考えて、決めた。
その行動を終えると、「こっち」とまた膝の上に跨らせられる。
食べやすいように、デザートを選んだ。
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