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俺がプリンを掬ったスプーンを差し出せば、「あ」と無防備に口を開け、待ち構える。


「っ、」


…ゾクリとするほど整いすぎた顔が無防備に薄く整った唇を開いている。その隙間から見える、先程まで濃厚に触れ合っていた赤い舌に、頬が熱を上げる。

すぐにでも触れたくなる衝動を抑え、別の方へと無理に思考をそらす。

……前のやつより、このやりとりの方が結婚してる夫婦みたいだ。


「ありがとう。美味しい」

「…うん、」


喉を上下させて飲みこんだ蒼にお礼を言われて、目を伏せたまま頷く。

「ほら、まーくんも」と同じように促されて、口をゆっくりと開ける。

変な顔だったら嫌だな、とかこうしてる時の顔どんなのかわからないから見られるの恥ずかしい、とかそんな思考で自然と目を閉じた。

口の中に差し込まれるスプーン。
咀嚼して、舌の上に広がるプリンの感触と、じっと見つめられているだろう気配に、もぐもぐしているのさえ羞恥を覚える。

カチャ、とスプーンを置く手。
頬に触れ、不意に口づけられる。


「ん、んん…っ?!」


クチュ、ヌチュ…、と甘い味を混ぜ合わせるように舌同士が擦れ、吐息を奪われた。
気づけば自分の方から何度も舌をせがんでしまいそうになって、今更引け目を感じて身を離した。


「…っ、…もうすぐ結婚するのに、なんかいも、こんなこと、」


今は最早言い訳じみた言葉を口にしている声さえ弱々しい。
嫉妬に駆られているくせに、キスでとろとろになってしまっているだろう顔も見られたくない。
切なく惨めな感情で目を逸らせば、熱くなった頬を優しく撫でられる。


「まーくん、…最近何か、雰囲気変わった?」

「……」


反応してしまいそうになる身体の動きを抑える。
ばれてはいないと思っているけど、…蒼のことだから行動の節々から察していてもおかしくない。


「どうして、そう思うの?」と平然を装って問い返す。


「前ほど甘えてくれなくなった」

「…っ、だって、あと数日で旦那さんになる人に、頼るわけにはいかない、から」


着替えも、お風呂に入って洗うのも、元々は自分でやるべきことだ。
昔の『おれ』がされるなら年齢を考えればそこまでおかしな話ではないかもしれないけど、今の俺は中身も外見も高校生だ。

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