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流石にしてもらっていてはだめだということはわかる。
「それに、式の準備まで手伝おうとしてた」
「………」
「なんで最近は澪より自分を優先してって言わないの?」
「…それ、は、…っ、」
背中を抱かれた状態で、ゆっくり畳に身体をおろされる。
「結婚するって知ったら、もう俺のことはどうでも良くなった?」
するりと肌を撫でるように指を絡め、押し倒された体勢で追及される。
見上げれば、魔性とでも表現できるような表情が目に入る。
止めてほしいわけじゃないくせに、構ってほしそうな顔をしている蒼と視線が絡み合い、すぐに逸らす。
「澪が奥さんになったら、流石にここまで構ってあげられなくなるかもしれないけど」
「っ、」
「それでもまーくんはいいの?」
探るような目が、俺に向けられているのを感じる。
……嫌って言って何が変わるのかと、問いただしたくなる気持ちを堪える。
本当は全部曝け出してしまいたい。
最近どんどん強くなる衝動のまま襲って、心なんていらないから無理にでも押し倒して、上に乗って性器を奥まで咥え込んで強引に交わってしまいたいと。
澪より俺を愛してほしいと、そう泣いて叫びたいのを腕が痣になるほど手で握ったり、血が滲むほど唇を噛んだり、……それでも抑えられないこともあるけど、その度に方法を考えて、ようやく堪えることができている。
なのに、それが彼は不満なのか、それともその様を見て楽しんでいるのか。
ちょっとでも自分を意識してないんじゃないかと思えば、揺さぶりをかけようとしてくる。
この身体の反応を見れば一目瞭然のはずなのに、気づかないふりをして確認してくる。
……わざわざ俺の口で言わせて、惨めな思いをさせたいのか。
「だから、そういうのは、」
「……言ってくれないんだ?」
「っ、お、れは、」
ただでさえ、身体の異常な反応が強くなるにつれて何故か前にも増して蒼の言葉に逆らえなくなってきているのに。
見つめられるだけで熱を上げ、まるで『そうなるように』されているみたいに喉が震え、言葉が零れ落ちそうになる。
「相変わらず、我慢強いな」
訳知り顔で意外そうに目を細め、意思に反して彼の言う通りに本心を話したがっているらしい、その場所を優しくなぞられる。
おかしい。何かが、おかしい。
「ぁ、な、…なに、」
これ、と、媚薬を飲んだような反応をする身体と、操られているみたいに自由の利かない声に、戸惑う。
と、
「キスするから、いつもみたいに舌出して誘って」
「……っ、ぁ、…んん、」
……彼の表情に、声にどうしようもなく身を焦がして、腹の奥がきゅーってなる。
まだ話したいことが沢山あるのに、一瞬で全部どうでも良くなった。
好き、好きだって聞かれてもないのに蒼に愛の言葉を囁いて、……勝手に口を開く。
「身体だけは言うこと聞いてくれるのに、意思はまだ無理か」
小声で呟かれる声に、返すべき言葉が幾つも浮かんだのにひとりでに消えていく。
重ねられた唇と、慣れた動作で絡められた舌。
何度も柔らかく吸われ、口だけで交合するように触れ合う。
卑猥な音を鳴らして腰に響くような行為に、もぞもぞと太腿同士を擦った。
(………蒼と、キスしてる)
こうしてくれるだけでこんなにも、嬉しい。幸せすぎて苦しい。
なら、肌を重ねて、彼の思うままに抱いてもらえたら、……それはきっと想像もできない感情を味わうことができるんだろう。
二度と離れたくない。
俺の存在だけを感じて、身体の熱を奪い合って。
彼女のところに戻らずに、俺だけにしてほしい。
今みたいに、俺を『愛している』ような行為をして、ほし
「………っ、なん……れ、……」
(………違う、)
どれだけ多くキスをしても、どれだけ何度も身体を重ねたとしても、蒼は俺を愛してるわけじゃない。
どれだけ蒼の傍にいても、
触れ合えることで、涙が零れるほど嬉しくなったとしても、……その感情にたどり着く場所はない。
……そう、何度も言い聞かせた。
言い聞かせて、いるのに
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