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身体の奥深くから尋常じゃない痛みと悲痛が生じて、途方もない幸せと喜びの感覚以上に泣きたくなる。


(…っ、そうやって、好きな人がいるのにキスするのも、)


嫌だ、嫌いだ、と、拒もうとして妨げられる。
手を掴んで畳に押し付けられた。


「まだ、残ってる。痛い?」

「……………ぅ、ん、」


口腔内を執拗に弄り、舌や唇に触れていた息は満足したのか下に移動し、首元にしっとりと熱く触れる。

数日前に噛まれた場所。

滲んでいた血は今は微かに残って別の色になっている。

最初より大分マシにはなったけど、あれから結構な時間は過ぎたのに、そこの筋肉がどうにかなってしまったんじゃないかと思うほど動くたびにジンジンして、痛みを訴える。


「俺は、澪に見つかって散々拗ねられたよ」

「……っ、」


同じように痕をつけた場所に視線をやれば、意味を把握したのかさらりと返される。

彼の言葉に、殴られたように心臓が震える。

……ああ、痛い。
まだ、ずっと苦しい。

見てほしいとは思った。
澪に、その痕に気づいてほしいとは思った。

けど、……位置的に普段は着物で隠れている場所にあるものに気づくということは、そうなるような行為を何度も二人でしてたって事実を必然的に突き付けられる。

可愛く拗ねたんだろうことは想像するのも容易だ。
そんな澪を、きっと蒼は愛しく思いながら甘やかして、宥めたんだろう。

……知ってるけど、……そんな話を、好きな人の口から聞きたくなかった。


「まーくん、怒ってるの?」

「……おこって、ない」


極力顔に出ないように気をつけたつもりだった。

それに、怒っているというよりは、酷く傷ついただけだ。
怒りより、悲しいほうが強い。

顔を背け、目を伏せた俺を見下ろす蒼が、微かに笑みを零したのが視界の端で見えた。


「澪にするようにしてあげようか」

「……——ッ、んん…っ、?!」


唇に優しく重なる柔らかい感触。

最初は唇を食むようなキスをされた。
ゆっくりと蕩けるほど優しく、表面を撫で、舌の感触を味わうような口づけ。

……少し絡めただけでもわかる。

普段のと、全然違う。

これまで俺としてたのは良く言えば必死に求める情熱的な感じで、悪く言えば一方的に性欲を発散するため、快楽を得るために翻弄されるだけの玩具みたいなされ方だった。

だからこそ、余計に比較するしかない。

先程の蒼の言葉の意味を、知ってしまう。

……『澪にするようにしてあげようか』ってなに、…なんだよ、それ、と叫びたい。

何がいいたいんだ。

俺にはしないってこと?
だから、澪の方が好きだって思い知らせたいってこと?

好きだと、痛いほどに伝わるような、この仕方で、そんな表情で、してたって、

俺は知らなかった、知らないでいたかった。


……―――――今しているのが……、蒼が心の底から愛してる人にするキス、だなんて、わからないでいたかった。


「ぁ…っ、ふ…、んん…っ、」


涙の零れる目を細め、身を震わせる。

俺には、
俺にだけは絶対にしてほしくないのに。

……それなのに、動けない。

拒まないと心臓が、身体が引き裂かれるように痛くて、痛くて痛くて、きっとこれ以上、あと数秒でもされたらもたないのに、……彼にこうされたがってる逃れられない気持ちに、本能に抗えない。


(………羨ましい、)


口や舌から伝わってくる。
大切に大事に、まるでお姫さまを優しく扱うように感覚を重ね合うようにお互いの気持ちいいところを探り合って、とろんと蕩けてしまうような夢みたいな心地に腰が砕けそうになる。


(……羨ましい、羨ましい)



奥から手前、また奥へと自分の舌で相手の歯茎をなぞりあい、想いを重ね合うように、感じ合うように、再び舌や唇、できること全てを使って愛情表現をされて、……ねっとり自分と相手の唾液が混ざるのを感じながらクチュ…、クチュ……と厭らしい音が鳴る。


(……羨ましい、羨ましい、羨ましい)


時間をかけて徐々に体の支配を、心を奪われていく。
じんわりと包みこまれる快感にお腹の奥がきゅうきゅう疼いて、媚薬の味を覚えるように身体が蕩ける。
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