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……そんな日は来ないってわかっているのに、空しい夢を見ようとしてしまう。

だって、俺には挿れないって、それが答えを言っているようなものじゃないか。

あの時言った言葉に嘘はない。

『好きな時に使ってくれればいい』と、言った言葉は冗談じゃなかった。

けど、比較して、されている気がして、つらくてつらくて、胸が張り裂けてしまいそうになる。


(……最後までしないなら、…っ、なんのために、)


疼いて、渇いて、全身が欲しがってしまう。
見返りを求めて傍にいるわけじゃない。

けど、以前屋敷に閉じ込められていた時以上に身体だけ使われて、心をめちゃくちゃにされるばっかりで、悲鳴を上げ続ける心臓に呼吸さえままらない。


「……どうせ、言ってもわからない、」

「俺はまーくんとエロいことするの好きなのに」

「っ、だ、から、そういう、惑わすようなこと、」


頬を赤くした俺の熱を更に上げるように、妖艶な手つきでドロドロの性器を撫でられた。
二人の精液や先走りでぐちょぐちょに濡れている亀頭を指先でヌルヌルなぞられ、手で包みこむように扱かれると更にジンと下腹部が痺れ、前後に腰が動く。


「…ぅ、ん…っ、ぅ、ぐ…っ、」

「まだ射精を知らなかった頃のまーくんも可愛かったな」

「……っ、」

「覚えてる?俺とキスしてる最中に精通したこと」


まるでその思い出を大事に取ってるみたいに、そんな声で言わないでと、蘇る記憶にもかけられる言葉にも一秒一秒が心を蝕んでいく。


「…あれ、は…わかって、なくて、勝手に、」

「小学生なのにキスしながら無意識に股を何回も擦りつけてきて、お漏らししちゃったって泣いてた」

「……っ、」


揶揄うような台詞に拗ねたくなる。
そんな昔のこと、よく覚えてるなと思う。

今となっては恥ずかしすぎる記憶だから消し去りたいぐらいなのに。

(元はといえば、くーくんが無理にしてくるからで、…っ、)


「ああ…そういえば、俺が澪に最初に会ったのも同じ歳だったな」

「……っ、」

「確かまーくんの家で匿ってもらう前に、」

「……、めて、」



夢物語だったような俺達の遠い過去も。
蒼が澪と過ごした二人の時間も聞きたくない。


思い出を塗りつぶさないで。

全部、上書きされてしまう。

代わりにしないで。
俺のいた場所を、最初からそこにいたのが澪だったように扱わないで。


「………っ、ぅ、…」


泣きたくなる気持ちを堪えて、ほとんど効果のない…きっと怒りよりも傷ついた気持ちの方が強いだろう顔で睨む。

だって、最近の蒼は特にそうだ。
俺に甘い言葉を囁いては、それと比較し、揺さぶるように澪の話を持ち出して―――――、



「……まさか、わざと……じゃないよね…?」

「何の話?」

「今、澪のことを、………」


ぽつりと問いかけようとして、彼の表情を見て確信に変わる。
俺の質問の意図も、そうされてどう思うかも何もかもわかっているのに知らないふりをして、魔性のような笑みを零す。


……やっぱり、そうなんだ。

そんなことをして何の得があるのかわからないけど、蒼には少なくとも多少は意味のあることなのかもしれない。


(…俺、蒼のためになんでもできる。できたんだよ。あの人も、俺は、)


『ご主人様』を殺した。
また、この手で人を殺めてしまった。

蒼と澪が身体を重ねる行為をしているのだって、知ってるけど耐えてる。

痛くて痛くて痛くて、言葉にできないぐらい痛くて。

見た光景を思い出しては嘔吐して、
蒼の傍にいると息をすることもできなくなることばっかりなのに、

それなのに傍にいたくて。

触れてほしくて、抱き締めてほしくて、キスしてほしくて。

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