12

「まーくんを一人にしないから、」

「……っ、一人にすればいい…っ、おれが弱いのが悪いんだから、おれが、全部悪いんだから…っ、もういい、傍にいるなんて、あんな約束どうでもいい…っ、一人にしていい、って…っ、」


まるで昔と変わらない間柄のように、そう錯覚してしまいそうなほど心配そうに落とされた声に、感情が溢れる。

……なんで、そんなこと言うんだ。

結婚相手に澪を選ぶってことはどっちにしろ俺を一人にするってことじゃないか。

…どうせ澪が困ったらそっちを優先するくせに。
今だけ一緒にいてくれたって、一時的な優しさなんて、…そんなのいらない。


「きっと、こうなるだろうって思ってた」

「…なに、…思ってた、って、…」

「でも、…俺のせいだって知ってても、止めなかった。…止めたく、なかった」


全てを予想していたような言い方をする蒼は、まるで自分のせいでこうなったとでもいいたげに声を漏らす。

少し口を閉じ、酷く言いにくそうに言葉を詰まらせた。


「…だめなことだってわかってる」


「最低だって、自分でも思ってるけど」と、暗く苦しそうに、思い詰めたように小さく吐き出された言葉は、何かを押し殺しているように聞こえる。


「一番大事な人を…好きな人を殺したまーくんのことを考えたら、……こんな気持ちになるのは良くないってわかってる、のに」


強く抱き締められているせいで、零れた涙が蒼の着物の肩を濡らしていく。
密着している身体越しに伝わる体温に、胸が鷲掴まれているように苦しくて息が乱れた。

首元に顔を埋めた彼は、言葉を選ぶように悩み、それでも、と吐息を零す。


「――……俺は、嬉しかった」

「っ、」


あまりにも、それは予想できなかった声に含まれた彼の感情。


「……………うれし、か、った…?」

「…うん。俺を選んでくれたような気がして、嬉しかった。まーくんが、…全部、俺のためにしてくれたことだから」


ごめん。と僅かに震えて、低く掠れた声は真剣だった。

本心だと、感じる。

その言葉に感情が膨れ上がり、堪え切れずに声を上げて泣きたくなった。


(……なんて、おれは身勝手で都合の良い生き物なんだろう)


悪いことをしたのに。
何よりもしてはいけないことをしてしまったのに。

彼の言葉が胸を打ち、揺さぶり、良かったのだと、無駄なことじゃなかったのだと、

これからも、彼のためならどんなことでもできるとさえ思ってしまいそうになる。


「だから、傍にいる。いなくなったりしない」

「………っ、」


抱き締められたまま囁かれる甘い台詞に絆されそうになって、ぐ、と拳を握り、首を振る。


まるで『見返りに』とでも言えてしまえそうな表現だ。
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