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蒼が、おかしい。
彼は怯えた表情を浮かべるおれを見て、口元を緩める。
「なんでこんなに汚れてないんだろうって最初に会った時から思ってた」
「…っ、ぇ、」
頬に触れている手がそこを優しく撫で、弄ぶように髪を梳く。
「今でもずっと可愛いし綺麗だし純粋だからそんなまーくんを絶対に誰にも汚させたくなくて色んなヤツを潰してきたけど、でももしかしたらまーくんの為に何かに利用できたんじゃないかと考えたら勿体なかったかなって思ってた」
「ぁ、あの、何、言って、」
「けど、危ないことにならないように危険因子は潰しておくべきだし、そう思うとやっぱり俺のしてきたことは正解だったんだなって実感して、今も潤んだ目で戸惑ったように見てくるから、もう」
そこで一度言葉をとめた蒼に、驚きに目を見開く。
普段見ないような表情を浮かべている整った顔は人の心を奪い、狂わせるような凄艶さがある。
最初に会った時より、成長した顔つき。
美少年というより美青年に近づいた容姿で、
……彼はゾクリとするほど、『男』の顔をしていた。
美しく冷たい目が獲物を捕らえたように鋭くなって、細められる。
「我慢なんて、無理」
「……っ」
堪えているような声が、いつもより低くて甘く掠れている。
おれよりむしろ蒼の方が何かの熱に浮かされているようだった。
がまんって何だ。
蒼は何の話をしてるんだ。
頬を包むように触れる温度の低い手に、背筋がぞわりとする。
「あお…っ、ッ!…ふ…っ、ぅ…っ、んぅ…!!」
軽く瞼を伏せた顔が近づき、吐息とともに噛みつくように重ねられた。
ぎゅっと唇を結べば表面を舌になぞられて小さく震え、声が漏れる。
息を吸おうと口を僅かに開くと、ぬるりと侵入してきた舌に優しく撫でるように粘膜を嬲られた。
逃げる舌を追いかけられて捕らえられる。
吐息まで飲み込むような口づけが深くなるたびに、頭が痺れて脳を犯す。
望んでいないのに、まるでおれがそうすることを求めているみたいに、微かに開いた口唇の間で艶めかしく舌同士が厭らしく絡まり合い、濃厚に触れ合っていた。
「…は、ん…っ、ふ…っ、ぁ…っ、」
押し倒されて、手首を上から押さえつけられているせいで全く身動きができない。
「まーくんも舌出して」
「ん゛…っ、んーーー!!っ、ぁ…っ、やめ…っ」
例えるなら、小学生とやり慣れた大人。
それぐらいの経験の差があるような気がした。
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