17

***


(……ぁ、)


「………っ、痛、ぃ…」


零れ落ちた言葉は、紛れもなく心臓が握りつぶされるような感情だった。

俺は昨日、正式に蒼と澪の関係を認めた。

……というより、責めるのをやめたと言った方が正しい。

早く、諦めなければと思う。
この未練たらしい気持ちを捨てて、全力で祝福できるようにならなければと思ってる。

……のに、

屋敷にいると、それが絶対に叶わない願いなんじゃないかと泣きたくなるほどに感じさせられる。


(……だって、)


どうしても、……………見て、しまう。

恋人同士の逢瀬のように、二人が寄り添って会話しているところを。

……本来、ここにいる俺が異物なんだとわかってはいても、抉られたように痛む心臓は悲鳴を上げるだけでどうにもできはしない。

何度、繰り返したかわからない。
この数日間、俺が会うことを後押しするようになってからは以前より人目がつく場所で見る頻度が増えている。

当然といえば当然の光景だ。

『結婚式が間近に迫っている』から。


人によっては、一番今が、この時期が幸せだと思う人もいるらしい。
それぐらい濃く、お互いの気持ちが通じ合える時間。


……手を絡めて歩く蒼と澪の姿。
縁側に座り、身体を預けて仲睦まじい様子で話をしている姿。


彼らは、夫婦になるのだ。

最初から運命づけられていたかのように、惹かれ合ったのだろう。

……俺がいなければ、もっと早くに結ばれていたはずだった。


「話には聞いていたが、これは想像以上だな」


不意に、耳に届いた感嘆の声。


「式前に一度ご挨拶をと思って伺ったものの、いやはや良いものを拝見できた」

「私も同じ理由で参りましたがね。あの親密な御様子ではお声がけするのが躊躇われてしまいますな」



声の方向に顔を向ければ、近くを通りかかった五十代程の年齢の二人の男が話をしている。

見ている場所は、先程の俺と同じ。

今現在縁側に座って、何やら照れたような仕草で澪が蒼に耳打ちをしている。

……内緒話をする、その動作一つでさえ、とても幸せそうで二人の関係性の深さを窺わせた。

prev next


[back][TOP]栞を挟む