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まーくん、と普段に増して艶やかで、色気を滲ませた声が耳を犯す。


「……なに、」

「俺が戻ってきたのは、さっき言った理由だけじゃないんだ」


彼の指先が、手首に触れる。
熱を持った、滑らかな肌の感触。


「今日も澪の身体が持たなかったから、代わりに相手してくれる?」

「…っ、」

「してくれるなら、これ以上の追及はしないって約束するよ」


息を呑む。
握っている手の平に触れる固い金属に、蘇る思い出と今とのギャップに、小さく震える。


「か、わり……?…って…なんで、それを…また、俺が、」

「今隠してるもの、強引に見てもいいって言うなら構わないけど」

「……っ、」


信じられない思いで見上げれば、僅かに目を細めた。


「安心して、最後まではしないから」

「……っ、でも、」


選択の余地など与えられない。
頭に手を回され、唇を重ねられる。

……ただ、性欲の発散のためだけの行為。

(また、流される、)

全てを有耶無耶にされ、思考を奪われる。


「ふ、ぁ…っ、んぅ…っ、や、だ…っ、」

「やだじゃない」

「…っ、?!や゛、…んん…っ、」


上気する頬と、絡めるたびに甘く痺れる舌。
一瞬唇が離れた合間に手で胸を押し、身を捩って身体を離そうとする。

けど、繰り返される口内の愛撫に腰が砕け、床にへたりこむ。


「嫌だ…っ、ほんとに、…っ、だ、から、…っ、ん…!」


目の前に膝をついた蒼に再び吐息を奪われ、疼いていた性器を撫でられる。
浴衣の内側…下着の中で手慣れたように指先を駆使して弄られる性器によって容易に悶え、尻が揺れる。

下腹部を犯す感覚と、婚約者がいる相手とこんなことをしているという自己嫌悪。

グチャグチャと股間から淫音を鳴らしながら扱かれ、骨盤全体がジンジンして疼く。
動かされる度に頭が痺れて何も考えられなくなる。


(……どっちにしろ、俺は蒼に逆らうことなんかできない)


罪を自覚したのに自白しようともせず、罰を受けていない自分が意思を持って抗っていいはずがない。
俺のしたことが赦されることではないとわかっているからこそ、蒼の望みを断れない。

それがたとえ、どれほど俺の心を抉ることであっても甘んじて受けなければならないんだ。

滲む視界で、微かに彼の胸元が見える。

俺が、……この手で刺し、傷をつけた場所。
ひとつ違えば、今こうしていることさえ叶わなかった。

涙を浮かべながら、交わされる溶けるような口づけに翻弄され、それ以上の抵抗はできなかった。
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