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これが現実か。

……これが、同じ日本で生活している人の家かと、まず第一に天と地ほどの身分の差を突き付けられた。


とんでもなく大きな土地と、上等で豪華な昔ながらの日本家屋。
大層なお金をかけて作った屋敷だと一瞬でわかった。

亡くなられた清隆様の経営していた幾つもの事業はすべて御令息の蒼様が引き継ぎ、以前にもまして評判も上々らしい。

自分より年下にもかかわらず、聞くだけでも畏敬の念を抱かざる負えないほどの業績を持っているまだ20歳にも満たない歳の青年。

若いころに父を亡くし、大層苦労したことだろうと思った。
水族館やその他に関する記事やテレビでも見ることがあった清隆様のしていた仕事量は膨大だと想像に難くない。

学生の勉強と両立することは並大抵の努力では困難だ。
それを実際に達成し、より大きな事業の展開と繁盛をさせて注目を浴びていることに尊敬の念を抱かざるを得なかった。

……しかし、同時に妬ましさもあった。

若くして輝かしい功績をおさめ、成功している人間と比較した20代後半の自分はあまりにも愚かで惨めだった。

何をするにもパッとせず、仕事も続かず努力も報われない。
そもそも努力というには甘い覚悟しか持っておらず、能力も精神力も人並み程度かそれ以下の自分には未来になんの栄光も希望も見えなかった。

僕の努力不足が招いてしまった過去を思い出すと、前向きな気持ちになれるわけもない。

そんな自分がこんなに大きなお屋敷の使用人として運良く採用されたのだ。
給料も高いし、他の募集要項も含めて僕にとっては好条件ばかりだった。

ありがたい待遇を用意してくれた主の顔ぐらいは見ておこうと思ったものの、雑誌では未成年だからか蒼様の写真は載っていなかった。


執事長によると、数日後に成婚されるらしい。
相手は妃 澪という、これまたどこぞの偉いご令嬢だと聞いた。

今回何らかの事情(理由は教えられてないが、一斉に入れ替えとなると大方金持ちの家だからその時の気分とかだろう)で使用人が一掃された。

新しく雇用された僕ら全員にわざわざ挨拶をしにきてくれた澪様は美人だった。
愛想も良く、着物の上からでもわかるぐらいおっぱいはでかかった。Gかそれ以上だろうと勝手に推察してしまった思考を恥じ入る。


ただひとつだけ気になったのは、澪様の薄茶色の髪だ。
全然それのせいで損なっているとは思わない。
充分美人な女性であることには変わらないけど、元の色は違ったんじゃないかと謎に考えてしまった。

彼女の着物にも、顔の系統的にも黒の方が似合う。
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