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僕の仕事の割り当ては、主に各部屋の掃除と給仕だ。

仕事内容を確認された後、
この屋敷での注意事項を、執事長に再度復唱させられた。


@高い給料には相応の責任が伴い、働きが求められること

A第一は蒼様、その次に澪様の優先順位において、指示にはどのような内容でも必ず従うこと。

B各々に役割を分担するため、一週間以内には各自の仕事を完璧に遂行できるようになる必要があるが、急遽Aの指示が入った場合は何よりも先にAを優先すること

C指示があった場合を除いて、後ほど説明する二つの部屋には如何なる事情においても近づかないこと

Dある人物の方から近づいてきた際は、あったこと、会話をした内容すべてを詳細に報告すること


ひとつずつに説明や補足があったが、後半になるにつれて何故と思うことばかりが羅列された。
理由を聞こうにも、それを口にしていい空気ではない。


先ほど去り際に蒼様にも言われた。
言及されたのは、二つのうち一つの部屋と、そこにいるらしい少年に関することだけだったが。

それだけ何か特別なことでもあるのか、部屋自体というよりはその『特定の人』について念入りに注意されたから勘ぐらざるを得ない雰囲気だった。

蒼様の御姿が見えなくなった後もDだけはくどく思うほど執事長からも詳しい条件と規約を説明され、なぜそこまで特別扱いをされているのかは明白にされなかった。

とにかく、その少年には接触しないに越したことはないと思うような事柄ばかり列挙された。

部屋は離れた場所にあるから余程気にかけなくてもいいか。


(……そういえば、澪様については蒼様からは何も言われなかったな)


奥様に近づくなとの禁止令を当然出されると思っていた。

色々気になることはあるが、ただ言い忘れただけだろうと思いながら切り替える。
さっそく入職日から勤務終了時間まで仕事に取り掛かることになった。


―――――――――――――――


日々、仕事を覚えることで精いっぱいだった。
朝から夕まで、今までの過ごしてきた時間の倍を消費している錯覚になる。


「本日の業務は終了です」

「……、ありがとうございました」


(……?)


端的な指導者の言葉に、今日一日の御礼を言う。
住み込み式の雇用のため、渡された一日のスケジュールが記載された紙に改めて目を通した。


「あの、」


気になっていたことがあったため声をかけようとしたが、顔を上げた時には既に指導者はいなかった。


「……気のせい、だよな…」


そういうこともあるだろうと気を取り直し、自分の割り当てられた部屋に向かおうと踵を返した。
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