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しかし流石に何度も続くと、異様な感覚にさせられる。
永遠に認識してもらえない自分という存在に。
前日にした話が消えたように次の時も同じ説明をし、同じ会話を繰り返させられることに。
初日にはわからなかった目の前にいる少年の実態が、ある種の恐怖を与えてきた。
どういう原理かはわからないが、返ってくる言葉の内容から考察するに『くーくん』に関わること以外は残らないらしい。
昨日一人で何をしていたか、何を食べたか、何を考えていたか。
幼少期の『くーくん』が関係していないときの話をどれだけ聞いても、何も思い出せないようで目から生気が消える。
一転、『くーくん』が少しでも関連する、傍にいなくても『くーくん』を起因とした感情面だけでも残っている場面の話は細かく覚えている。
たとえば精神科とかでショックで記憶に何か問題があるといわれたことがあるかと聞いてみるも、何もわからなさそうだった。
PTSDにも思える振る舞いやしゃべっている言葉の内容からすると、その線もあるかと思ったが。
幼少期の虐待に耐えようとした子がそういう回路に何か問題を抱えることがあるとは聞いたことがある。
医療職種として精神科に数年勤めていた僕の勝手な推察でしかないが、この少年も話からするとそれが原因かもしれない。
「ここから出ようとは思わないんですか…?」
この問いは無意味だと知っている。
昨日も、聞いたからだ。
この少年がこのような有様になってまで何故ここに居続けるのかは知らないが、自分の足も懲りずに様子を見に来てしまう。
……使用人として、仕事以外のことをしているとばれたらただじゃすまないかもしれない。
が、今はそれでもいいと考えている。
そう思うぐらいに、とっくに少年に入れ込んでいた。
僕のこの行動は弟にできなかったことの一種の免罪符にしたいからであって、他に理由はない。
ある男と色々あった末に養子に引き取られた弟と外見は似ても似つかないし、記憶の欠如らしいことも弟にはなかったが、……少年の境遇や状態の一部に同情し、重ねようとしている。
「まだ、捨てられて、ない……」と、先ほどの僕の問いに対する返事か、涙で濁る声が聞こえた。
「…くーくんが、いないと、…意味、ないから……」
とてつもなく辛そうに苦しそうに、健気にも吐き出される。
「おれに、なんの意味も、ない…っ、」
枕に顔を押し付けて泣きながら、…好き、と『彼』への想いを零す。
直接『くーくん』がその人だと教えてもらったわけではないが、何度も見ていればそれが誰のことであるかは確定的に推測ができた。
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