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やんわりと断られたと察した少年が、くしゃっと傷つき、心臓をおさえて悲痛に顔をゆがめたのが遠くからでも見える。


「れ゛い、みたいに、…っ、だいて、もくれ、ない…っ、ぅ゛…え…っ、ばか…っ、ばかぁ…っ、れ゛い、は、まい゛、にぢ、…っ、なの、に゛…っ、おれ゛、…っ、おれ゛、だっ、…っ、で、…」


好き、なのにと、俯いて蒼様の胸に縋りついて涙を零し続ける少年に、やはり突き放すわけではなく…小さく謝罪する声。

服にしがみついて泣き続ける様を見ていられなくなったのか、慰めるように今度は蒼様から顔を近づけ、唇を重ねていた。

少年は驚いたように一瞬身を硬くする様子を見せながらも迎え入れ、…苦痛と幸福を滲ませて涙を頬に伝わせる。


「……………」


遠くから見ていた自分でさえも、無意識に息を止めてしまうような光景だった。

決して結ばれることはないのに、口づけを交わす二人。


(……蒼様も、罪な男というか……残酷な御方だな)


想いを受ける気はないのに、そうやって中途半端に期待させるような行動をするから諦めきれないわけだ。

……だが、蒼様には婚約者がいるのに、何故屋敷から少年を追い出さないのだろう。

二人の空気感から、ただの友人同士ではないことは明白だ。

キスしていることからも先ほどの少年の言葉からも、それ以上の関係性であった可能性も否定できない。

今の態度からしても、どうせ遊びの範疇なんだろう。

女だけでなく、男も渇望するような容姿だ。
泣かせてきた女はきっと数でいえば百を下らない。
少年も恐らくその中の一人でしかない。

飽きたら捨てる。もしくは相手が愛想をつかすの待つ、のそれぐらいの気持ちなんだろうことは間違いない。今のを見て、そうじゃないと思える奴がいたら感嘆だ。

……もし可能性としても排除していいとは思うが、仮に本命が少年なのだとしたら、蒼様ほどの御方であれば婚約など不要だと簡単に切り捨ててしまえるはずだ。

奥様との結婚を冗談でもしようとするはずがない。

澪様のご両親との顔合わせをしているのも実際に見た。

初キスはどこだったとか、一般的な親との惚気話でもしないようなことを蒼様の隣で嬉々と声を弾ませている奥様の声が聞こえてきて、スムーズに事が進んでいるのは確認済みだ。

前に奥様に愛を囁いていた時の冷めた顔は未だに気にはなるが、結局勘違いだったんだろうとの結論に至った。

でなければ、ここまで後戻りができない状態に蒼様が自身を追い込む理由がない。

籍を入れて手を出しにくくなる前に、男の身体でも味わっておきたいというやつだろうか。

いや、この度長年の想い人である奥様と正式に結婚することになり、以前から深い関係ではあったもののうまく別れられなかったからずるずると屋敷にいさせてしまっている。

今のを見るに、おそらくそういう感じだろう。

色々と式のための予約や各々のお偉いさん方への招待状の送付も済んでいる。

夫婦になるのは決定だというのに、飽きるまで使う、という目論見があるのであればあまりにも少年が可哀そうだと思った。

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