6

「じゃあ、何か食べるもの持ってくるから」


歩いていこうとするその姿に。
どこかに行こうとするその姿に。


「まっ…」


待って、そう呟こうとして声がうまく出ないから、反射的にその着物の裾を掴む。
掴んでから自分の行動にハッとして、でも熱で震える手はそれを離そうとしない。


不思議そうに振り返る蒼に、俯いて呟く。
寂しい。もう一人でいたくない。
今、目を閉じたら多分、いや絶対あの悪夢を思い出す。見てしまう。


「……………いやだ。…行かないで」


傍にいて。

そう呟こうとして、ああ自分は何を言ってるんだろうなんて考えながら。

でも、これは熱のせいなんだから。
これは自分の意思じゃなくて、熱があるせいなんだから。

手をベッドについて、そこから降りる。


「ちょ…っ、なにやって」


慌てる声が聞こえたけど、そんなの関係ない。
もうまともに働かない思考で本能のまま、手を伸ばした。
その背に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
驚いた顔をする蒼を見上げて、訴えるように言った。


「…やだ」


最早自分でも何が言いたいのかわからない。
けど、どうしても蒼に行ってほしくない。
離れてほしくない。
…傍に、いてほしい。
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