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「俺がどれだけ、我慢したか知ってる…?」
「ひぅ…っ」
首筋を何かやわらかいものが這う。ゾクゾク、と痺れるような感覚が背中を駆け抜けた。
…そのやわらかさに、それが唇だとすぐに気づく。
「蒼…、」
あれ。おかしいな。身体が、勝手に動く。
まるで身体が自分の物ではないかのように、動く。
…何故、なんて考える思考も存在しない。
気づけば彼の首に手を回して、その唇にむしゃぶりつくように縋っていた。
「んぅ…っ、んん…っ、」
自分から舌を差し込み、ソレを見つけると舌が痺れるほど甘く絡める。
…一瞬驚いたような顔をした蒼が、目を細めてそれに応えてくれる。
吸うように、噛むように、強く抱きしめて求めた。
唇の端から唾液が零れても、呼吸が苦しくて窒息しそうでも、やめない。
絡み合う舌が心地いいとさえ感じる。
「んん…っ、あお、い…っ」
呼吸の合間に、声を出せば後頭部を押さえられて、より一層激しくなる。
「…っ、必死にしがみついて舌伸ばしてくるの、めちゃくちゃ可愛い」
肩で呼吸をするようになって、窒息する寸前で唇を離せば、二人の唾液が微かに糸を引いた。
困ったように持て余した表情で微笑む蒼に頬をすりすり愛でるように優しく撫でられる。
ぼうっとした思考のまま蒼の服を脱がそうとすると、「いい」と首を横に振られた。どうして、と問うように見上げれば、柔らかく笑みを零す。
「今日は、俺がするから。じっとしてて」
”今日は”…?
ふと疑問に思って首を傾げる。
自分からしようとした覚えなんて、1回か2回くらいしかない……と思うんだけど。
そんなことを思考の端で思った。
でも、そこまでで、些細な疑問はすぐに消えた。
「…うん」
気づけば、頷いて身を差し出していた。
あれ。なんで何とも思わなくなってるんだろう。
なんで、これが普通だと思ってるんだろう。
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