命の重みさえも

白哉からなんとか逃げ切り、瀞霊廷の中心部にようやく戻ってきた私は、西の方でぶつかる凄まじい霊圧を感じた。


未だに警報が轟く中、さっきまでは白哉の霊圧で分からなかったけど、ひとつは同じ現世から尸魂界にやってきた死神、一護か。


もう一つは…それなりに強い霊圧だ…ざっと副隊長クラス、だろうか…。


また厄介な相手にぶつかったものだ。対して戦ってもないのに、まさか副隊長と、ねぇ。
死ななきゃいいけど。

さて、とりあえず私は、自分がすべきことをしようか。この処刑は、絶対に止めなくてはならなくなってきたな。

死ぬ気で戦ってるやつがいる。今から死にに行くやつのために。


屋根の端に達、下の通路をバタバタと走りすぎる死神たちを見ながら、ため息を一つ付いた。

それに今、懺罪宮の近くから霊圧を感じる。どうやら黒崎たちは、ルキアの収監されている場所を突き止めたらしい。なかなかやるじゃないか。


今の今まで霊圧を隠して動いていたなんて、あいつら意外にやるじゃん。

さて、私はこの極刑について調べてみようか。とりあえず、頭の整理ができる場所に行こう。
久しぶりに行ってみるか、あそこに。




瀞霊廷の東側にある、護廷十三隊詰め所とは、正反対の場所に位置する、貴族の邸宅が立ち並ぶ一角。

そこにある白壁が囲む屋敷。
そこは、門を入ってすぐに見えてくる大きな池の中に立てられた茶室が特徴敵な屋敷だ。

そしてそこは、昔私が使っていた部屋だ。中には埋まるほどの本があった。現世にいく前、あの部屋の下に地下室を作り、研究を続けていた。




水の上を飛び越え、茶室の桟橋に着地する。

やはりここからの景色は格別だ。水面に浮かんだ蓮に、ぴしゃりとはじく鯉。
昔と何にも変わってない。



静かに襖に手をかける。その瞬間、懐かしくも恐ろしい霊圧を感じ取った。



「帰ってきたのか、常盤」


その声に、手にかけた戸から手を離し、一度息を吸ってからゆっくりと振り返った。


「それは私の台詞ですよ。このような場所にいてもいいのですか、…兄上。」


自分に似た顔を持つ唯一の肉親。私と血を分けた兄妹。
今はこちらにはいないが、同じ死神。私が尸魂界を去った理由も、帰ってきたことさえも気づいてここに来たのだろう。

まぁ、そんなこと言ったら、バカにされそのうえ自惚れるな、と一蹴されてしまうだろうが。



「旅禍と来たらしいね。」

にこりと微笑む兄に、目を細めた。


「……えぇ。」
「なにを考えているんだい?」


にこやかに、だけど鋭い視線を突き刺す兄に、たぶん…いや今までもだが、この状況では取って付けたような嘘は通用しないだろうが。



「……。
兄上ともあろう方が、お分かりにならないのですか?」

悪足掻きをしないでもない。


「……まったく、相変わらず口が悪いな。」

そう呆れたようにため息を付いた兄に、視線を伏せすっと息を吸うと、まっすぐ彼を見て告げた。



「朽木ルキアの極刑について。」

そう言うと兄の眉間に皺が寄った。



「……調べてどうする。」
「わかりません。
でも、いささかこの事には違和感を感じた。だから調べます。
それに、私の力ではルキアを助けることはできません。
しかし、黒崎…共に来た旅禍ならできると思うのです。」

そいつを助けたい。


「それは、私の顔に泥を塗ってでも、かい?」



兄の声色が急に冷たくなった。ピクリとと口角がふるえた。
だけど、怖いけど足が震えそうだけど、今回ばかりは諦められないのだ。どうしても、そう思えたから。



「私、嵩宮常盤は三十余年前に、死にました。
死人がなにをしようが、嵩宮の名には傷は付かないはずです。」


そう言うと兄は、はぁとため息をついた。


「頑固だな、相変わらず。
現世で喜助に感化されたか。」
「そうかもしれませんね。
しかし、おかげで私はここにいます。」
「そうか。
まったく、困った妹だ。」



そう言って兄は、はぁと深いため息を落とすと、私の手を掴むとそっと何かを掌の上に置いた。


「大霊書回廊の閲覧申請は出しておいた。」
「え…?」


ただただ驚いた。
まさか兄上が。


「行く気だったのだろう?
いくらお前の部屋に書物があろうとも、あそこにはかなうまい。」


そう言って小さく笑った兄は、一歩私に近づき私の頭をポンポンと撫でると、何もなかったかのように踵を翻し歩き出した。



「…兄上。」
「常盤」
「はい。」
「よく帰ってきたね。」


そう微笑んだ兄の笑みに、涙が出そうになった。


白い羽織りの真ん中のその印を背負い、今でもその凛とした空気に、圧倒される。

そして、颯爽と去っていく兄に、申請証明書を胸に抱きしめ深く腰を折った。


自分がどんなに強くなろうとも、どんなにえらくなろうとも、この人には一生適わない気がした。

憧れだった。あの羽織が。
私もああなりたいとずっと思っていた。


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