捨てた永遠
夜一さんの霊圧をを追ってきたよかったのか。
すべてが良かった、とは言いきれないが、悪くはなかったのかもしれない。
目の前で、身をひそめて何やら下の様子をうかがっている男女の後ろに隠れ、桟橋を見下ろした。
桟橋には、四番隊の隊員、ルキア、血まみれで倒れているのは岩鷲か。
そして。
白哉、そう小さく心の中で唱えた。
桟橋に横たわる岩鷲の姿に眉を潜めた。体中に夥しい数の刀傷。細かくそして深い。数百、いや数千。
こんなことができるのは、私が知る中ではあいつの斬魄刀のみ。
現世に来たときとは、比べものにならないほどの霊圧を放出し、静かにしかし凍てつくような鋭く冷たい目で、ルキアを睨みつけている。
ドク、ドク…。
恐ろしいほどに激しく波打つ鼓動。その自身の目に見えた変化に眉を潜め、胸にそっと手を当て死覇装を握りしめる。
今更、白哉の前に立つと思うと、自然と脚が竦みそうになる。どこかに後ろめたい気持ちでもあるのか、はたまた別の何かがあるのか。
しかし今は、そんなことを考えることではない。怯えている場合ではないのだ。
様子を見に来ただけのつもりだったが、この場にあの人が現れたことが、吉とでるか凶とでるか。
四番隊隊員と、そいつを庇って前で両手を広げて立つルキアにまで、千本桜を向けようとする白哉の手を、背後にいた浮竹隊長が掴んだのだ。
「やれやれ、物騒だな。」
相変わらずと言うべきか、この場に似合わない穏やかな声を上げた浮竹隊長に、思わず胸をなで下ろした。
あのままだったら、私は確実にあの場に突っ込んでいただろう。
浮竹隊長と白哉の会話に耳を傾けていると、ズンといきなり霊圧がのし掛かった。
この霊圧は。
答えがでるかでないかのあたりで、太陽を遮り何かが桟橋に舞い降りたオレンジ頭の旅禍。
……一護。
相変わらずタイミングの悪すぎる登場に、頭を抱えるよ。
いくら浮竹隊長と初対面だからって、白哉と浮竹隊長、隊長が2人もいるこの狭い空間に現れるなんて、あいつは死ににでもきたのか?
それとも、やっぱりただのバカなのか?
火花が散るほどに刀をぶつからせる、戦う黒崎と白哉を静かに見つめた。
このまま少しやらせとくべきか、はたまた今すぐにでも止めて、黒崎を引きずってでも連れて帰るか。
そう考えを巡らせているときだった。
「散れ。」
白哉が始解させようと名を呼ぶ。
斬魄刀が解放される直前。まるで疾風のように忽然と白哉と一護の間に姿を現した。
夜一さん。
夜一さんは、白哉の始解を包帯で止めると、私の存在に気がついているのか、こちらを見上げにやりと笑った後すぐさま白哉に視線を戻した。
誰もがその姿に目を丸くした。
「貴様は…」
「久しぶりじゃのぉ、白哉坊」
「四楓院夜一か。
先代隠密機動総司令官及び、同第一分隊刑軍総括軍団長、四楓院夜一。
久しく見ぬ顔だ。行方をくらませて100余年、生きていたとは。」
白哉が夜一さんとにらみ合い、警戒している中で、一護と言葉を交わす。その瞬間、夜一さんは一護の腹を一突きした。
瞬く間に一護の表情は厳しくなり、そのまま崩れるように倒れると、夜一さんの肩に担がれた。
それからの攻防は、目にも止まらぬ早さで過ぎ去り、夜一さんは白哉の瞬歩を見切ると、棟の屋根に降り立った。
そして一護を担いだまま姿を消した。
数秒後には、すでに霊圧さえも負えなくなっていた。
夜一さんが去り白哉が、去った後。
目の前にいた2人が、浮竹隊長に呼ばれしたに飛び降りていった。
誰もいなくなった空間に足を進め、そっと身を屈めた。
下では、なにやらごちゃごちゃと話しているようだが、そんなことは別にどうでもいい。
ルキアは、ルキアは無事なのか。
桟橋の手すりに手を突き苦しそうな表情を浮かべている彼女を見たら、心がギシギシ言い始める。
この憎しみに似た黒い気持ちは、いったい誰に向けられたものなのだろうか…。
「誰だ!出てこい!」
その言葉にハッとした。
いくら考え事をしていたからと言って、まさか浮竹隊長に悟られるとは。
はぁ。と小さくため息を付き、屋根の端に足をかけると、そのまま桟橋へ飛び降りた。