泣くことを忘れたとしても

夜一さんを追いかけ、思った通り霊圧は洞窟の前で止まっていた。

そこは、昔喜助さんや夜一さんと訪れたことのある勉強部屋の入り口だ。

相変わらずカビ臭い石段を降りきれば、一面に広がるのは、浦原商店地下に広がる勉強部屋と同じ光景。



「ったく、お主の探査力は恐ろしいのう。」


梯子を下って行くと、夜一さんの姿がすぐ近くにあって、腕を組むその背中に向かって歩き出せば、振り向きざまに夜一さんは困ったように笑った。


「あ…ありがとうございます?」



そう返すと、ふっと小さく笑い、再び黒崎に視線を戻した。

話によると、どうやら夜一さんは、黒崎に卍解を取得するために特訓させているらしい。

3日で卍解を修得させる。


聞いたことのない話だ。だいたい卍解というのは、幾度と無く鍛錬の重ねた上でごく限られてものに与えられる称号。


それなのに、死神になってわずかな、しかも人間に卍解を習得させるなんて。


正直無茶だと思った。

だけど、今ルキアを助ける一番の近道は、黒崎が卍解を会得することしかない。



だからどこかで、この少年に希望を見つけたのは、きっと救ってくれるとどこかで願ったから。


この子ならできると。
根拠はないが、そんな気がするのだ。



それから、どこからともなく現れたのは、赤い髪をしたあの死神がだった。
数日前、逃げてもう会うことはないだろうと思っていたのだけど、まさかこんな早く再会できるとは。


「あんた、この間の。」
「どーも。どんな風の吹き回しかな。旅禍を助けるなんて。」
「旅禍を助けるんじゃねぇ、ルキアを助けてーから手伝ってやるだけだ。」


そう言って、斬魄刀を構えた彼にすでにボロボロだった黒崎が、息を吹き返したようにニヤリと笑った。


こいつらは、何処と無く似てる。
単細胞なところも、暑苦しいくらいに仲間思いなところも。


それから、突然現れてへばる黒崎の卍解習得の手伝いをしたかと思えば、なにやら表情を変え勉強部屋から出て行ってしまった。
何か決心でもしたのだろうか。



好奇心だけて少し経ったあとに、勉強部屋(尸魂界バージョン)から飛び出していった、赤髪パイナップルを追いかけてここまでやってきたはいいが。


「派手にやられたねぇ。」


四番隊のリュックを背負った死神が、赤髪を治療している姿を見つめ、そっと横にたった。


「だ、誰だ。」


ギョッとしたひとりの死神が、私に気づいて鰐口をきる。


まったく、気が早い。
やれやれ。

こんな騒動で、気が立っているのはわかるけど、敵も見方も判断できないようじゃ、この先きっと邪魔になりそうだ。



「なっ!?」



抜きかけた斬魄刀の鞘に触れ、斬魄刀を押し返し、襟元を引っ掴み持ちあげる。


「戦いに来たんじゃないんだ。
それは、分かってるでしょ。」
「く、苦しっ」


足が浮いて、わたわたと暴れる少年に、にこりと微笑んだ。


「ちょ、ちょっと!」
「朽木白哉と戦ったんだって?」


慌てる4番隊員に持ち上げた少年を投げ返すと、地面に横になる赤髪の死神のよこにしゃがみ込み、ニヤリと笑った。

赤髪の体に手をかざしていた四番隊の隊員は、明らかに私にビビっているが、まぁそこは気にしないことにしよう。


「てめぇ、何もんだ。」
「うーん…。
まぁ、誰でもいいじゃないですか。」
「よくねぇっ…つうーっ。」
「興奮しない。
あのさ、これから双極の丘に行くんだけど、君もどうかな?」
「何…?」
「朽木白哉に負けたままじゃ、悔しいでしょ。

朽木ルキアを奪還して、一泡吹かせてやろうよ。」



あの仏頂面に、ね。そう首を傾げて赤髪に笑えば、すぐに返事が返ってくると思っていた彼は、なんだか険しい顔をして空を見つめている。


どうせ黒崎みたいに莫迦なくせに、余計なこと考えているんだな。

ったく。

「朽木ルキアを助けたいんでしょ。

黒崎に任せたままでいいの?
あいつは朽木白哉を倒しに行ったよ。」
「……れは…できるのか?」
「あぁ?聞こえない。」
「俺は、ルキアを…助けられるのか?」


あ?


せいっ!



「ぐふっ!」
「うわっ!恋次さん!
な、何をするんですか!」


ぐっと拳を握りしめ、躊躇いなく赤髪の腹に一発かました。
赤パインを庇うよう立つ彼に、ニッコリと微笑む。


「弱音を吐いたこいつが悪い。」
「っぅー…。」


ピクピクとお腹を抱えて悶える赤髪に、横にいた後輩らしき死神が慌てて背中をさすっている。



「四番隊の…えーと、」
「あ、山田花太郎です。」
「山田くん、あとどれくらいで終わるの?」
「ここでは応急処置しかできません。隊舎に戻らないと。」
「赤髪くん。
ここでは応急処置までだって、どうする?
隊舎に行く?それとも私と双極に行く?」
「……。」


そう言って立ち上がり、目の前に立ちはだかる、霊圧が渦巻いている双極の丘を静かに睨みつけた。



黒崎、間に合え。



そう願うように、拳に力を込めた。



「おい、あんた。」
「ん?」
「俺は赤髪じゃねぇ。
阿散井恋次だ。」
「そう。

じゃあ、阿散井くん…どうやら決心は固まったようだね。」

「あぁ。」


治療を受けながらニヤリと笑った阿散井くんに、ニヤリと同じく笑みを返した。


立ち上がった彼は、ジッと双極を睨みつけている。


「っておい!あんたはどこに行くんだ。」
「真相を確かめて来る。」
「はぁ?
双極に行くをじゃなかったのかよ!」


立ち上がった阿散井くんの肩をぽんと叩き、小さく笑った。



「あなたなら助けられる。
ほら、早く行った行った!」


そう言って、彼の背中をポンと押した。



「あんた、名前は…。」
「嵩宮常盤」
「常盤さん」


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