凍死した心

一護は卍解を習得出来ただろうか。
結局見届ける前に勉強部屋をでてきてしまったからなぁ。

人の心配をする余裕なんてないはずなのに、なぜか突然浮かんできた黒崎の必死な横顔に少しだけ勇気をもらえた気がした。


さて。一息つくと目の前にそびえる建物を見上げる。
あらゆる可能性を考えてみた末、今回誰も介入していないところと言えばここ、完全禁踏区域の中央四十六室しか、思いつかなかった。

そう隊長でさえ、ここを疑うことはないだろう。がいま、この状況で誰も近寄らない。きっとだれも思いつかないこの場所が、この事件の首謀者が隠れるには、皮肉にも絶好の場所なのだ。



こんな勘外れてしまえばいいのに、こんかいばかりは外れそうにない。






自分の目の前には、何者かには破壊されたと思われる入口。
そしてその中から、かすかに感じる霊圧。が…1、2、3……6?…5?


それにこの霊圧は…。
間違えたくても、間違えるはずがない。

どちらにせよ、2つは死にそうだ。


処刑まで、あと1時間足らず。


とりあえず入る、その選択肢以外思い浮かばなかった。

すっと深呼吸し、破壊された入口の隙間から身をよじりながら中央地下議事堂にもぐりこんだ。
不気味なほど静かで、薄暗い廊下を進んでいくと、ある場所を境にはきそうなくらいの血の臭いが溢れ出ている。おもわず死覇装の裾で鼻を覆った。ひどいにおいだ。


そしてそれは、私が行こうとしていた中央地下議事堂から。

それが何を意味しているのか。




「……まったく…。
どうしてこうも勘が冴えわたっているんだろうね…。」



いつもは全く当たらないくせに。
いやな方に、悪い方にと進み続けて、この悪循環はいつ止まるのだろう。誰が止める?
止められる?


そしてとうとう中央地下議事堂に足を踏み入れた時、足が血に塗れた部屋の床を踏んだ。


あぁ。これ思ったより悪いかもしれない…。


中央四十六室が全滅。それに加えて、床に倒れこんでいる影が…2つ。

隊長羽織を着た少年と、副官証を着けた少女…。



とっさに少女の方に歩みより、そっと首元に触れる。
トクトクと、かすかだが脈を確認でき、ホッと胸をなでおろす。


よくもこんなことを。
そっと彼女の前髪を触れ、虫の息の彼女を見ていると、胸が潰されそうだ。



「…君はいつからそちら側になったの?

きっと君の頭では、今回の首謀者が考えることを理解するには、少したらないんじゃないかな?」

私の言葉に吉良は、何も答えずただそこにたっていた。「ねぇ、藍染…惣右介。」


吉良の背後から姿を現した死んだはずの隊長の姿。
その隣には、案の定ギンがいて。


「まさか、東仙さんまでそちら側だったなんて。
驚きました。」
「驚いているようには思えないが。」
「相変わらず君の優秀さには、驚かされるよ。

尸魂界に入って6日。
そこまで知られているとは…やはり君はあの時殺しておけばよかったな。」



うっすらと不気味なほど静かにほほえむやつに、ぐっと歯を噛みしめる。


「藍染…。」


やはり、あの時の大虚の大群は、あいつの仕業だったのか。



まぁ。今となれば、何がどうなった、なんていう経緯なんてもうどうでもいい。
もう答えは出ているのだから。



少年の側にいたナイスバデーなおねえちゃんの驚いた表情が視界の端に入った。

少年は死にそうだが、ナイスバデーなおねえちゃんに怪我はなさそうだ。


さて。
どうやって処刑を止める?
藍染を止めれば処刑は止まるのか?



「…イヅル、ちょっと外し」
「はい」



市丸に促されてすぐにイヅルはその場を抜ける。


「吉良!」


少年を抱えた松本が叫ぶが、振り返ること無く彼は扉の起きに消えて行った。


「…随分とまあ、忠実な部下だね。」
「ええ子やろ?」
「どうだか。
犯罪者に忠実なのはどうかと思うけど?」
「相変わらず厳しいなぁ、常盤は。」



ヘラヘラと笑うギンにギュッと眉間にしわを寄せ、にらみつけた。そして、ギンは斬魄刀を抜いた。

どちらが先とは言えず、同時に一気に間合いを詰め、斬魄刀がぶつかり合い鈍い音を立てては、再び間合いを取る。

つい、速い剣撃に思わず刃で受け止めてしまって、しまったと思った。



重過ぎて払うことも、刀をずらして身を入れることもできない。かわすべきだった。それに気づいてか、ギンがにやりと笑った。

がその背後から先程の副隊長さんが迫り、ギンは私をを蹴り飛ばして彼女に振りかえった。

腹を蹴られ、その勢い止むことなく、背中から床にと激突した。そこで止まれず、壁にぶつかり冷たい床の上に転がる。


「―― っ!!」

喉が焼けるような嘔吐感に激しく咽せる。口を拭って立ち上がろうとするが、腹の傷が疼きだした。が、幸いな事に骨は折れていないようだ。ちょっとひびくらい入ったかもしれないけど。


ギンと剣を交える副隊長さんは、斬魄刀を払われ斬魄刀が空を飛ぶ。
どれが痛むのかわからないほど軋む体に、悪態をつきながら膝を立てる。



ギンの斬魄刀が抉った横腹を抑え、立ち上がる気力もなくてその場に座り込む。



「えらい怖い顔やなぁ。

名残惜しいけど、君と戦こうてる暇ないねん。
堪忍常盤。」
「ギン、時間だ。」
「ほなな、乱菊。」



相変わらずへらりと笑ったギンに、ギン!と副隊長さんの声が響き、私は斬魄刀に手をかけたまま、ただじっと見つめているしかなかった。


「まて!」


そう言って追いかけそうになっている副隊長さんを、呼び止める。


「そこの、副隊長さん。」
「え?はっ、私?」
「そう、あなた。
この事を卯ノ花隊長にこのことを伝えて。」



私ではきっと、…尸魂界をでた私ではきっと、信憑性にかける物があるから。

「わ、分かった。
隊長のことよろしくお願いします。」



そう言って深く頭を下げた副隊長は、中央地下議事堂から走り出した。

その背中を見送り、ゆっくりと立ち上がった私は、斬魄刀を杖代わりにし、まだ幼さが残る二人を並んで寝かせた。


さて、どうする?ひどいのは少女の方だ。そっと彼女の腹部に手をかざした。


応急処置しかできないけど、止血できれば何とかなるはずだ。

それから、数分間止血を続けていると、自分の体力がジワジワと減っていくのがわかるが、それでも今わたしにできることは、情けないことにこれしかない。




「……嵩宮さん」
「…卯ノ花隊長…、勇音さん。」
「え、常盤さん!?」


驚いて声を上げた勇音さんに、懐かしさを感じながら小さく微笑んだ。
軋む骨に鞭打って立ち上がると、斬魄刀を握りしめ勇音さんに、指示を出す卯ノ花隊長を見る。


「卯ノ花隊長、この子たちをよろしくお願いします。」
「…あなたは…どうなさるおつもりですか?」
「双極に向かいます。」
「その傷で、ですか。」
「はい、見逃してください。」
「そうですか。」


卯ノ花隊長は、どこか諦めたように視線を下げた。

卯ノ花隊長の隣で驚いている勇音さんににこりと笑い、双極へと走り出した。


すでに双極では激しい霊圧のぶつかり合いが始まっていた。
そして、その場所に幾つもの霊圧が密集していた。


どうか、間に合ってくれ。


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