痛みわけでもまだ痛い
痛いのって、昔から嫌いだったんだ。誰かに剣でたたかれることも、斬られることも。
それがいやで、痛いのも我慢してせっかく誰にも叩かれないくらいに強くなったのに。
私は自分を傷つけたりする趣味はないし、自らの望んで痛みを伴う場所に、わざわざ、行ったりはしない。
けど。本能的に動いた足を止める術などなくて、どうしても傷つけたくない、そんな忘れたはずの気持ちのせいで、いつの間にかズンと重苦しい衝撃を身に受けた。
後に、言い表せないくらいの痛みがやってきた。
先程の傷を深く抉るように、ジクジクと熱い。
あぁ、痛い。熱い。
少し前だったら、見て見ぬ振りをして知らん顔していた。
私には、関係ないと。私はもうこの世界とは無関係なのだと。
でも、必死になってルキアを助けようとしている阿散井くんと一護を見てしまったら、知らん顔なんてできなかった。
隠していたはずの愛情が、溢れ出してしまった。
はっと背後で息をのむ声が聞こえた。
それもそうか。
妹を助けるために動いた白哉の前に、私が立っているのだから。
手を広げることさえままならなかった。貫通しただろう。
だけど、ルキアと白哉には当たってはいない。それだけが、救いに思えた。今度こそ守れた。
そんな自己満足。でも、十分だ。
肌を伝う血液の、ぬるぬるとした感触が気持ち悪い。とっさに掴んだ刀に手がきれて、また血がしたたり落ちる。
血に濡れ始めた死覇装。腰の帯はもう真っ赤だ。絞れば血が出てくるだろう。
腹に刺さったギンの斬刀。やっぱり痛いよ。
刺さっている刃を掴むと、縮んでいく刀と共にズルズルと引きずられて、ギンに近づいていく。
「常盤さん!」
そう誰かが呼んだ、気がした。
そして、ギンの斬魄刀が完全に元のカタチに戻ったとき、私はぐっと死覇装の襟元を捕まれ、足が浮いた。
「あかんやん。藍染隊長邪魔したら。常盤。」
っ…。
鋭い、蛇のような視線が突き刺さり、息苦しい。
だらんと力なく垂れ下がった両腕。つま先からは、血がしたたり落ちている感覚が分かる。
痛い。痛い。
「そんなに死にたいん?
ならボクが、君を殺したるわ。」
舌なめずりをして、弱っていく餌を見るような、そんな気味の悪い目つきをしたギンに、言葉が出ない。
じわりじわりと抜けていく熱。冷たくなり始めた足先。
私は、たった一突きされただけで死ぬのか?
もう恐怖で震えることさえままならない。その時だった。
「破道の六十三、雷吼炮!!」
空から振ってきたじ丹坊と空鶴さん。そして彼女が放った鬼道により、ものすごい突風に、再び双極の丘は土煙に包まれた。
その瞬間、ぐいっと顔を近づけたギン。
「死んだらあかんよ、常盤」
「あんたこそ、死ぬなよ、絶対に。」
「そら、常盤が約束守ってくれたら、考えたるわ。」
「……ギン。」
その言葉に、下唇をかんだ。
「ずるい。」
そうやって、自身のためだと思わせて、結局は…。
土煙が収まる直前。
何かを感じとったのだろう。ギンは、私の襟元を掴んだまま、投げた。
ドンと地面にぶつかった衝撃で、血が吹き出す。ジャリッと皮膚が擦れて、また傷ができたようだ。
ドクドクと絶え間なく流れる血。震える手を腹あてて、鬼道で傷口をふさぎ、いつの間にか隊長達に動きを遮られていたギンや藍染を見た。
「すんません、藍染隊長。捕まってもた。」
ヘラッとした顔でギンは乱菊に手を押さえられ、藍染は夜一さんと…あれは…砕蜂に捕まっていた。
そして、どんどん現れていく隊長達に、私はいつしか逃げ出したい気持ちになっていった。
生きていると知られたくなかった。
「終わりじゃ、藍染。」
夜一さんの声が聞こえた。
その奥に、ルキアに支えられたら白哉が見えた。
どうやら生きてはいるらしいが…死にそうなことに変わりはない。ほんと、兄妹そろって、なんか笑えてきた。
髪から血がしたたり落ちる彼を、目を細めて見つめていると、いきなり空に亀裂が入った。
ガバッと空いた虚腔の奥には、大量の大虚がうじゃうじゃと渦を巻くように、飛び出してくる。
そしてその亀裂から、3本の光が飛び出た。そして藍染、東仙、ギンを包み込んだ。
とっさに離れた隊長達をあざ笑うかのように、ネガシオンに包まれた3人は、地面ごと亀裂に向かって上っていく。
上っていくギンの背中を見て、初めて理解した。あいつの目的を。
本当にバカだ。
ジャリッと掴んだ土が、傷口にしみる。だけど、それが気にならないくらい、悔しかった。
また、あいつは一人で…。
馬鹿者が。そんな声はもうあいつには届かないだろう。
何もなかったかのようにふさがった亀裂を睨みつけた。
今まで見ていた綺麗な空を、こんなにも憎いと思ったのは、初めてだった。
「二班と三班は、朽木隊長。
七班と十、十一、十三班は、狛村隊長にそれぞれ参加しろ。
阿散井副隊長は、第六段階まで手術完了。八、九班は移送の準備に入れ。」
藍染がさって、慌ただしくなった丘。
四番隊が走り回り、怪我人が横になる姿を横目で見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
私の役目はここまでか。
腹を庇いながら、斬魄刀を、杖にしてゆっくりと起き上がり歩き出す。
チラリと見えた一護は織姫に、ルキアが押さえられる中、白哉も四番隊の隊士に囲まれていた。
どうやら、命は助かったようだ。
良かった。
自身の止血はなんとかなるだろう。内臓は…まぁ、なんとかなるだろう。
「嵩宮常盤。」
誰にも気づかれぬまま去りたかったが、どうもそうさせてはくれないらしい。
相変わらずこの人は、手厳しいな。
「……総隊長…。」
雀部副隊長と共に現れた総隊長に、小さく頭を下げ、視線を落とした。
「話さねばならぬこともある、今はその傷を治療をしなさい。」
「さぁ嵩宮殿、こちらへ。」
雀部副隊長の言葉に、私は頭を左右に振った。
「傷は大丈夫です。
あなたが聞きたいことは、きちんとお話します。
だから、少し時間をください。」
そう言って小さく頭を下げると、再び総隊長に背を向けて歩き出した。
ぬるい嘘ごと飲みこんで
今日、私はまた死んだ