最早無くすものなどなくて
情けなく横たわる自身の目に映ったのは、またしてもあの背中だった。
昔から見慣れた凛とした背中。そして、飲み込まれそうなくらいの長い髪。
見覚えのある鍔のない純白の斬魄刀を支えに、再び自分から遠ざかって行く背中は、以前にも見たことがある。
4番隊の救護班が右往左往する中を、するすると抜けて次第に遠ざかる、その頼りない背中に手を伸ばす。
自分のものではないように、手が上がらない。力が入らない。それは、まるで四肢を拘束されているような。
こんな時に、なぜ動いてくれない。
また彼女が自分の前から姿を消そうとしているのだというのに。それを黙って見てはいられない。
今度ことすくい上げる。そう誓ったはずなのに。
そう思って、振り絞って伸ばそうとした手は、無惨にもパタリと力なく地に落ちた。
それを横にいたルキアに受け止められる。ルキアの泣きそうな顔の奥に、次第に小さくなる背中を見つめる。
“行くな”
そう呟いても、彼女が振り返ることはなかった。