嫌いといえば終わるのに

陰っていた雲が晴れ、満月が顔を出した。それと同時に暗闇から見えた三白眼。
驚く私をずっと見つめたまま、ひざを折って、隣にしゃがみこんだ。手は掴んだまま。



「お前の霊圧を辿るなど、ぞうさもない。」


黒い着物と青白い羽織を着て、斬魄刀も持たずにじっと私を見つめている彼に、つい言葉に詰まる。


何を言えばいいのか、分からない。
接し方を忘れてしまったのだろうか。


ただ無言で睨むように私を見下ろす白哉に、何も言えぬまま固まっていると、捕まれていた手に力が入り、すっと布が擦れる音がした。


先ほどからただ黙って私を見ていた白哉のもう片方の手が延びてきて、そっと私の頬を包み込んだ。



「常盤」


そう言って、目の下をゆっくりと優しく親指でなぞる。その行動に驚いたと同時に、とても優しい暖かさに泣きそうになった。

そして、きっと無表情だろうと思って見上げた彼の顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。

思いもしなかった白哉の表情に、思わず息が詰まる。どうしてそんな顔をするのだろうか。

泣いてはいないけど、心は泣いているように見えた。


苦しむ彼が自分には耐えられなくて、無意識のうちに、ゆっくりと手を伸ばしていた。だけど、伸ばしてすぐにはっと気がついて手を握りしめ引いた。


ダメだ。誰かがそう言った。
でも、そんななけなしのけん制は空しくも白哉によって崩されたのだ。
すぐさまその手が捕まれた。それに驚き目を見開き顔を上げる。


「少し髪が、伸びたな」


彼は私の肩に垂れ下がる緩く編みこまれた髪をみた。

彼に私の姿は、変わったようにみえるだろうか。
髪は確かに昔よりは伸びたが、着物も化粧も、以前よりもずっと地味になった。というか、今は化粧などしていない。

対して彼の髪は変わらず鋭い眼光を隠すには十分で、細い体、誰もが強張る三白眼、何を考えているか今ひとつわかりにくい鉄壁の無表情。


最後に見たときよりは、少し髪が長くなっただろうか。それ以外は、何ら変わらぬ姿でそこにいた。



視線を動かすことも、言及することもない。自分でそれを望んでいたはずなのに、胸が張り裂けそうという感覚を味わっていた。
持ちこたえさせるのは、僅かに感じる安堵。


「あなたはあまり変わらないようね。」

感情を殺して鼻で笑われ、ぐっと手に力がこもった。
口ごもる私の前に彼が動いた。



「常盤、私は兄を許さぬ」


名前を呼ばれるだけで、乱された。揺さぶられた。二度と呼んでもらうこともないと思っていたのに、彼は私の目の前にいる。


包む男の手に力が篭ったかと思うと、次の瞬間、耳元に温かい人肌と吐息を感じた。
少しだけ癖のある髪が、頬を掠めるように撫で、背中に回された腕が隙間を埋めるように締まる。早い鼓動が、厚い布を通して伝わってきた。


「馬鹿者が、なぜ庇った。
また、余計なことをしてくれたな。」
「私は謝らないからな。間違ったことはしていない。」

そう言って、何とか腕の中からはい出ようともがくも、一段と力が強くなり動けない。


「命を粗末にするな、馬鹿者」
「それは、あなたもでしょう。かっこつけている場合か、馬鹿が。
ルキアを悲しませるな。」
「お前に言われたくはない。33年も…死んだと思っていた。」

そう言って白哉はぎゅっと羽織りを握りしめ顔を肩に埋めると、それ以降何も言わなくなった。


「朽木くん離せ」
「うるさい」

う、うるさい!?

「白哉」
「常盤もう諦めろ」
「は?」
「もう逃がさん」
「なっ!?」

驚いて思いっきりもがけば、ようやく少しだけ隙間ができお互いの顔が確認できるくらいまで離れた。


「何を言ってる、あの時頭を打ったのか」
「打っていない」

バクバクする心臓を無視して、白哉を睨み付ければ、穏やかな笑みを浮かべ私を見下ろす彼と目があった。

その顔を見て、私はおもわず言葉に詰まる。

「もう遠慮はいないことにした」
「遠慮?誰に」
「兄に」
「は?」

言っている意味がよくわからなくて、首をかしげる私に白哉は続ける。

「言っただろう、もう逃がさんと」そう言うが早いか、動き出すのが早いか。少しだけ離れてくれたと思いきや、すっと膝下に腕が差し込まれ、そのまま体が宙に浮いた。

「え!?」

思わず近くにあった布を掴めば、思いの外白哉の顔が近くにあって、動きが止まる。


「ちょっと、白哉!下ろせ!」
「ならん」
「ならんじゃない!」


バタバタと足を動かし、何とか逃れようと必死になっていると、いきなり影ができ、唇に何かが触れた。

わずかに聞こえたリップ音と鼻が触れそうなほど近い白哉の顔。

「え?」
「うるさい」

そう言ってもう一度唇に感じた温もりに驚いている合間に、いつの間にか景色は移り変わり、白哉に抱えられたまま見覚えをある部屋にいた。

その部屋は、布団が一式敷いてあるだけの殺風景な和室。蝋燭の火が灯り、ぼんやりと室内を照らしている。

部屋の中心に敷かれた布団を上にそっと下された私は、驚きと困惑で目の前に座った白哉見るしかなかった。


いったい何があった?ここは?どこ?


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