体育祭の前に

先日全国模試もほどなく終わり、6月も半ば、そろそろ迫った体育祭、の前に、中間テストの時期がやってきた。

範囲が短いせいで先生たちもひねりを効かせた問題を出さないと、問題数が稼げなく、生徒は生徒で広く浅くはできないこの悪循環。

本当に嫌だ。


「やばい、ちょーやばい!何がやばいって数学がやばい!」


前の席で脚をバタつかせながら、数学のヤバさをリズミカルに表すアリスを眺めながらため息が出そうになる。

誰も聞いてないけどね。


「数学って何!」
「いや数学は数学でしょう」
「……そーじゃなくてっ!
お願いします、神様仏様衣織様!!私に数学を教えてください!」
「先生に聞きに行きなよ。」


嫌!無理!まだ死にたくない!とただをこねるアリスにため息をつく。

「案外行ってみるもんだと思うけど…。」
「え?」
「なんでもないよ。」

さっき聞いた範囲分のページを無駄にめくりながら、ブツブツと呟いているアリスに小さくため息をついた。


「一緒に勉強する?」
「え!いいの!?」
「1時間くらいしかできないけっ「やる!」

その一言で決定した理系強化勉強会、目指せ赤点脱出。私はてっきり、アリスだけかと思っていたんだけど、放課後数学科室から帰ってくると、アリスともう一人椅子に座って私を待っていた人がいた。

近づいて顔を確認しても、全く身に覚えのない顔だ。



「……誰。」
「ほら、な?な?」

そういう反応になるんだよ、言っただろ。と、隣に座っていたアリスと何やら仲良さげに話す男子。

髪茶色いし、耳ピアス空いてるし、一見してチャラい。

「いや、流れに乗れるかなって」
「なんのだよ。」

そして、話の内容からするにアホか。


「衣織、こいつ綾瀬、昨年数学赤点組。同じクラス。」
「……え。」

同じクラスにこんな人いた?と、疑問を抱えながら、アリスの隣に座る彼を見る。


「ちょ、町田さん、そんな化け物を見るような目で見ないで。」

おっと、つい感情が…

「こいつも一緒にいい?」
「私は別にいいけど」


そう言いながら自分の席に座った。
二人が準備してくれていたのだろう。机が4つ向かい合わせて置いてあり、アリスと綾瀬くんが並んで座っていた。

早速参考書とペンケースを机に起き、椅子に深く座る。


「で、どこから分からないの?」
そういうと、元気よく綾瀬が手を挙げる。

「はい!わからないところがわかりません。」


…壊滅的なんですけど。こいつ。

「ごめんバカで」
「お前もだろ!」

プリッと怒る綾瀬を、半ば無視するように考える。


「あー、
じゃ、教科書の基礎問を範囲のはじめから解いていって。わからなくなったら聞いて。」
「はーい。」


返事だけはいいなこいつら。
無駄に元気よく返事をした2人が、数Uの教科書の最初のページから早速とき始めるのを見届け、私も問題集を開いて解き始めた。



「町田さん、これなんで約分できないの?」
「…ここは、因数分解をして、共通因数を約分するの。この式を因数分解しても、分母と同じにはならないでしょ」
「確かに。」
「だから、これが答えになるの」
「ほーう、なるほど」


ブツブツとつぶやく綾瀬にから、再び視線を参考書に戻せば、「ごめん、遅くなった。」と、新たな声がして、シャーペンを止めた。



「おー、来た来た。
おっせーぞ、赤葦!」
「悪い、ミーティングが長引いて」


…お?
今まで頭を抱えて悩んでいたくせに、水を得た魚のように元気になった綾瀬は、声がした方に向かって元気よく手を振った。

そのせいで、アリスもペンを止めて声の方を見た。


やってきたのは意外な人物で、放課後なのに珍しくジャージ姿ではない彼。
こっちに近づいてきて、ばっぐをそ床に置くとのまま隣の席に座った。

「…お疲れ?」
「こいつらに捕まったの?」
「勉強教えてってアリスに言われてきてみれば、これ」
「じゃあ、俺も教わってい?数学」
「私でよければ」


赤葦くんまでもが数学の問題集を取り出し、解き始めると再び静寂が訪れる。シャーペンのこすれる音がやけに大きく聞こえてくる。


それから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。私もいつの間にか夢中になってしまっていた。



「うわっ、暗!」
「本当だ、いつの間に。」


騒がしくなった綾瀬の声に、ふと顔を上げみんなの視線の先を辿ると、窓の外はいつの間にか暗闇に包まれていた。

街灯が煌々と闇に浮かび、時計は6時を回ろうとしている。
そろそろ下校時間だ。


「そろそろ帰る?」
「そうだな、暗くなってたし、あとは家で」
「さんせーい」


ぐーっの背中を伸ばしながら、首を回すアリス。綾瀬も疲れたのか眠くなったのか欠伸を噛み殺しており、どちらにせよそろそろいい時間なのかもしれない。

勉強会は卆無く終了し、それぞれに疲れも見えてきたため、今日はここでお開きとなった。



「じゃ、俺チャリだから。」
「うん、また明日ね」
「おう。##name2さん、赤葦も、またな」
「じゃあね。」
「気をつけて」

校門まで一緒に行くと、それぞれが帰路につく。

ライトをつけて、暗闇に消えていく自転車を見送り、また三人で歩き出す。


「じゃ、私もここで」

JRと私鉄改札の分かれ目でアリスと別れる。


「赤葦くん、どっち?」
「梟谷一丁目、町田さんは?」
「囀町」
「じゃあ、こっちだね。」

どうやら赤葦くんが、降りる駅は、私より一つ後らしい。意外に近いことに驚きつつも、改札を入った。



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