梟谷学園バレー部
「町田さん」
いつのまにか隣の席に座って、こっちを見ていた赤葦くんにビビって手が止まる。
「行こ」
「あ、うん。」
黒いリュックを背負って立ち上がった赤葦くんに続いて立ちあがる。
「今日成瀬さんは?」
「先帰ったよ、塾だって」
「そうなんだ」
「意外だよねー。すごく勉強頑張ってる。」
「そうなんだ。」
「ところで赤葦くんて、何部?」
「バレー」
「へー。」
「ポジションは?」そう聞くと、なぜか驚いた表情をされた。
「セッター」
「おー。」
セッターって言ったら、チームの司令塔。しかもやつと一緒か。むこうは3年だし、しかも正セッターじゃないらしいけど、十分うまいと思う。というか、他校の正セッターより断然うまいと思う。
赤葦くんが、どこまでなのかはわからないけど、やつの実力は、練習に付き合わされた私が言うのだから間違いないと思う。
従兄弟がするのを思い出して、アンダーハンドのように手を組んでみる。
「かっこいいよねー、セッター。」
ボールを弾かせるだけで、よくあんなに正確なトスを上げられるよね。
「バレーやったことあるの?」
「うーん、掠ったくらい」
「意外」
「そう?」
「運動嫌いそうだし」
「外見で判断するのよくないよ」
「うん、ごめん」
ふふっと小さく笑った赤葦くんは、体育館の入り口でもある渡り廊下の、真ん中で足を止めた。
「で、寄るって体育館?部室?」
「部室、外だからちょっと待ってて」
そう言って赤葦くんは、体育館に続く渡り廊下の途中から、外へ行ってしまった。
マジかー、置いてけぼりじゃないか。
赤葦くんの姿がすぐに見えなくなって、余計大きく聞こえる木の扉の奥のバシンバシンとボールが壁にぶつかる音。
この奥でバレー部が練習しているのだろう。時々変な叫び声を混じっているが、音を聞くだけですごい迫力だ。
なんとなくその扉を押して見た。
コート2面分。きっちり取られた体育館は、まさにバレー部専用のものだろうか。
通常ならあるバスケットゴールも、ステージもない。床はオレンジと青でカラーリングされていて、オレンジがバレーのコートなのだろう。
ポールが4本立っていて、スパイクの練習中のようだ。音の原因はこれか。
「よーし!次、サーブ!」
「おー!」
気合を入った声で、それぞれ左右に分かれていく。
危ない!ハッと声が聞こえた方を見れば、ものすごい速さで近づいてくる黄色と青のボール。回転がかかっててゆっくりと落ちているように見えた。
カバンを横にぶん投げてボールの正面を向くと、とっさに構えた腕にボールが当たるように少し姿勢を低くすれば、バシンという音とともに、目の前でボールが浮かび上がったのがわかった。
そのまままっすぐコートの中央に飛んでいく。
「いったい!」
おー、セッターの位置。なんて喜んでいる暇もなく襲ってきた痛みに、思わず腕をさする。ボールを受けた場所がヒリヒリする。
赤くなってんじゃん、これ。内出血してるわ。男子だから?馬鹿力にもほどがあるわ、ちくしょー。
心の中でサーバーを罵倒しながら顔を上げると、目の前にそれはまた影ができていた。
「うわっ!」
「あー、悪いね、大丈夫?」
「…なんとか」
軽い、軽すぎる。全然大丈夫じゃねーよ、赤くなってんのが見えねーのかっつーの。
「お前の心が大丈夫か?」
「うっせーな!」
背後から出てきたもう一人の部員と、なぜか言い合いを始まった。
もう何も言うまい、行こう。
渡り廊下に戻ろうと振り返れば、またも目の前に足が見えて、顔を上げれば先ほど分かれた赤葦くんが、じっと私を見ていた。
「おー!赤葦!」
「木兎さん」
…木兎さん?え、あの木兎さん?
「なんだよ、早く着替えてこいよ」
「今日は体育祭の集まりがあるから遅れるって言いましたよね。」
「あ?そーだっけ?」
この声はやはりあの木兎さんではないか?
ゆっくりと振り返れば、白いTシャツに短パン姿で、ボールを抱えている木兎さんと目があった。
「お?あっれ、衣織じゃねーか!元気だったか?」
相変わらず頭がちいせーな!と笑いながら、ガシガシ私を頭を撫でる木兎さんは、ボサボサになった髪を見て満足そうに笑っている。
「お久しぶりですね」
「おう!あれから寝てねーか?」
「木兎さんじゃないので、安心してください」
「どーいう意味だよ!」
「そのままの意味です。」
わっはっは!と笑う木兎さんに、ちらりと隣にいた赤葦くんを見れば呆れたようにため息をついている。
「そろそろ俺たちは行きますね。」
「衣織、また来いよ」
「…気が向いたら来ます」
「気が向かなくても来い!」
「町田さんて、木兎さんと知り合いだったんだ。」
「あー、この前数学のファイル運ぶの手伝ってもらったんだよね。」
「あの木兎さんに?」
「女の子が重そうにしているのを見過ごす奴は男じゃないんだって。」
「あー、なるほどね」
「ん?」
「やっぱり単純だなぁって」
「木兎さんが?」
「うん。」