輝きが生まれるだけの産声
朝のSHRは、終わるまで普通だったと思う。転校生という存在は、そんなに珍しくはないのか、いたって普通の反応だった。あぁ、また。みたいな感じ。私にとって、とてもありがたいことだったし、助かった。
「町田、1限現国だからな、教科書は赤葦にでも見せてもらえ。」
教室を出て行く途中で、思い出したかのように振り返った吉木先生に、無言で頷くととりあえずルーズリーフとペンケースだけ机の上に出し、赤葦って誰だよ!と心の中で突っ込んだ。
と言ったものの窓側の一番端で最後列ときたら、もう選択肢は一つしか残ってはいないのだ。隣は右側にしかいないのだから。
右隣の、いかにもだるそうに頬杖をついて前を見ている彼が、担任の言っていた赤葦くんとやらなのだろう。
…さて、どうしたものか。
話しかけていいのやら、地味に悩んでいると、様子を観察していた視線と、彼が偶然こっちを見た視線が絡まり、驚いた表情を浮かべたまま、お互いに固まった。
「…赤葦くん、ですか。」
「うん。」
「初めまして、町田と言います。」
「うん、それさっき聞いた。」
デスヨネ。
「教科書、見せてもらってもいいですか?」
「あぁ、うん。」
どうぞ。赤葦くんの了解を得て、ホッとしつつガタガタと机を動かし、隣にくっつける。その行為さえも私にとっては懐かしい。
本日の授業は、5限まで。
イコール、全部赤葦君に借りることになるだろう。
「ついでなんですが、今日1日教科書を見せてください。」
「あぁ、うん。いいよ。」
特に嫌な顔をするでもなく、快く頷いてくれた彼に、私は心からの感謝を告げた。本当にお隣さんが彼でよかった。なんかもう、神様に見えてくるよ。
鈍い音を立てながら、机をくっつけたはいいが、授業開始まであと3分。
ただただ無言で、前を向いて、ものすごく気まずいのは私だけだろうか。
この状況で、赤葦くんを見るほど根性はない!
カップ麺ができるこの3分が、こんなに長いと思ったことはない。そして、早く先生来いと、生まれて初めて思ったわ。
「町田さんは、前はどこにいたの?」
「え?…あー、宮城?」
「へー」
あまり興味はないのか、頬杖をつきながらぼんやりと前を眺めている。聞いといてその態度はひどい、と思いながらも、実際この距離で顔を見て話されても困るから、これはこれで助かった。
「牛タンとかいっぱい食べるの?」
「…いや、そんなに。牛タンよりカルビの方が好き。」
「まあ、カルビ美味いよね。」
ちらっとこちらを見た赤葦くんは、
「よろしくね、町田さん」そう、微笑んだ彼に「こちらこそ」と釣られて笑った。
先生が教卓に寄りかかりながら、読み進める問題文よりも、私と同じ歳くらいの数学の先生に、ショックを受けて、問題が一切頭に入ってこない。
本当なら教卓に立つ彼は私と同世代で、ここにいる彼らにとっては私はだいぶ年上に見えるんだろうか。
「町田さん、次めくっていい?」
「あ、うん、どうぞ。」
覗き込むようにこちらを見た赤葦くん。わざわざ聞いてくれるなんて、優しい人だなぁと思いつつ教科書に目を移す。
次ページに羅列されたまとめ問題を解きながら、あー、こんなのやったわぁと思いながら、ペンを走らせる。
そういえば、昔から数学は得意だったというか、何故がよくできた。
何も考えずに解き終わると、教室を密かに見渡した。大半は机に向かっているけれど、コソコソと話す女子がいたり、頬杖をついてぼーっと黒板を見ている男子、スマホをいじっている子だって、後ろの席だから丸見えだ。
なんだかとても懐かしい。