微分学と君の落下速度

「町田次体育中だって」
「えー何やるの。」
「バレーボールー」
「えー暑いのに無理」
「いいから、さっさと行くぞ」


転校してからいつのまにか仲が良くなった友人AとB…籾山と青羽

最近の席替えで隣と前の席になった2人。最初は分からないところを質問されたり、次の授業の確認だったり、日に一言二言交わすくらいだったのが、いつのまにか昼休みになれば一緒に机をくっつけてご飯を食べて、放課後部活がなければ一緒に帰る。
休みの日には、一緒に買い物に行ったりするほどになっていた。


「町田、早くしろ」
アンダーフレームのメガネをクイっと上げて、面倒臭そうに話すのは青羽。前の席に座ってニコニコしているのが籾山。
この2人でさえ、全く違うタイプの人間で仲が良かったのは思えない。
だから何故ここに私3人が集まったのか、全く分からない。

「町田、早く着替えてないと遅れるぞ。」
「んー」
「じゃあ、僕は先に行ってるよ、どうせ場所も違うし」
「おっけー」

じゃねーと、ひらひらと青羽に手を振る籾山は、こっちを向くとまたにこりと笑った。その有無をうわせぬ笑顔に、しぶしぶ頷き去ったと着替え首にタオルを引っ掛けた。

「あんたがタオルかけるとさ、やけに哀愁漂うよね」
私を見ながら、しみじみ言う籾山に「ほっとけ」と悪態をつき教室を後にした。

チームメイトになった女子バレー部のせいでクタクタに動かされた私は、籾山に笑われてもからかわれても、それに返す気力もなく、スカートにジャージを羽織ったまま、リュックを背負った。

「町田が死にそう」
「生きて帰れるの?」
「そんなこと言うなら送ってって」
「無理、私部活」
「ごめんね、これから塾なんだ」

2人にマジレスされて、こっちが申し訳ない気持ちになって来た。どうせ暇なのは私だけさ。

「じゃ、帰るわー」
「途中まで送ろうか?」
「青羽、私のことは忘れて勉強しなさい。死にやしねーから」
「そう、じゃ気をつけてよ」
「じゃーねー」

ひらひらと手を振り、重くなった足をなんとか進めて駐輪場に向かった。
最近買ってもらった愛車。
よくよく考えて見たら、駅からの距離と自宅から自転車で通う距離、あんまに差がないことを知った私は、電車代を自転車一台のお金に換算して、どれくらいで元が取れるかを両親にプレゼンし、買ってもらったものだ。

自転車欲しいと行って、なんで?と聞かれるとは思っていなかった私は、え?っと固まった、その続きにわざわざ自転車にする理由はないと思うわよ?といわれ、またえ?っとなった。

素直に買ってくれると思っていた私が甘かったらしい。でも、高校生にこんな事言う?そのおかげで
自転車の値段から、月の電車賃まで調べる羽目になった。だけど今思えば、親の策略にはまったのだと気づき、ため息が出た。

淡い緑の自転車の鍵を開け、カラカラと押して学校の前の坂を下っていると、10メートルくらい先に、どこか見覚えのあるリュックが目に入った。


もしかしたらと思い、自転車に乗ってゆっくり近づいて行く。数メートルまで近づき隣に並んだ頃、「赤葦ー」と声をかけると、驚いたように振り向いた。

「…町田」

どこか元気のない彼に違和感を覚えながら自転車を降りると、隣に並んで歩く。

「今日、部活は?」
「あー、…休んだ」
「赤葦が?部活を?」

驚きすぎて何も言わずに、赤葦を見つめていると、くくっと小さく笑った。

「俺が部活休むのそんなに変?」
「結構ね」
「少し熱っぽくて、休めって言われて体育館追い出された」

不機嫌なのは、風邪のせいか、体育館を追い出されたせいか。

「先輩の判断は正解でしょ。赤葦の体調もだけど、他の部員に移る前に直せって事じゃん?」

そういうと赤葦は、「そんなことわかってるし」と呟くとムッとした顔をしたまま、黙ってしまった。


なんだろう。ここ数週間赤葦と話さない間に、彼は少し変わったらしい。それとも風邪のせいか。
無表情無気力男だと思っていた彼は今、笑ったり不機嫌になったりと表情が忙しく変わる。

「赤葦電車?」
「うん」
「じゃ、駅まで一緒に帰ろー」
「うん」

赤葦は少し赤い顔をしながら、ふふっと笑った。




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