その日からさらわれたまんま
坂を下り終えると、自転車を押して隣を歩いていた町田は足を止め自転車にまたがった。
それから何を思ったか自転車の荷台をポンポンと叩きながら、後ろに乗れと言った。
「大丈夫だよ、力はある方」
的外れなことを言っている町田。
どこから来るのその自信と不安しかないが、あまりにも自信たっぷりに言うものだから、町田のリュックを背負い自分のバッグはカゴの中に突っ込んだ。
これが、ジャストフィットで、このカゴこのバッグのために作られたんじゃない?なんて、テキトーなことを言う町田にため息をつきながら、後ろにまたがった。
「本当に大丈夫?
俺が、こごうか?」
「赤葦は、休み」
前を向いていて顔は見えなかったけど、声色でなんとなく彼女が笑っていることがわかった。
「さ、しゅっぱーつ。」
ぐんと自転車が思いのほか勢いよく動き出すものだから、後ろに仰け反り思わず町田のジャージの裾を掴んだ。
「うわっ!」
「ちょっ、赤葦ちゃんと捕まってよ!」
ケラケラ笑う一回りは小さい背中に、どこにだよ!と言いたい。
散々迷った挙句俺の手の行き先は、とりあえず彼女のジャージに落ち着いた。
最初こそフラフラしていたが、いつの間にか安定し一定のスピードで進んでいく。
町田の鼻歌と少しだけ暖かい西日に照らされながら進んでいく自転車に、いつの間にか不安なんて払拭され、あの自信の理由がわかった気がした。
それに心地いい風と彼女の存在に、どこから気持ちが楽になった気がした。
「梟谷から乗ってるんでしょ?」
梟谷学園は駅と駅の中間にあるせいで、梟谷から乗る生徒と梟谷南から乗る生徒がいる。違う路線が走っているため、間違えてしまう人もちらほらいるらしい。
「うん。」
結局、町田に改札まで送ってもらい、帰り際にポカリとゼリーを渡された。ほんとあの時の勢いは、時々会う隣のおばさんさながらなことに、笑ってしまった。
男として恥ずかしいやら、うれしいやらで複雑だったけど、彼女と少しでも話せたことは、素直にすごくうれしかったことは確かだ。
「じゃ、気をつけてお大事にー」
改札を入り振り返れば、まだそこにいた彼女は、手を振っていた。その手に恐る恐る振り返せば満足そうに微笑み、彼女は歩き出した。
学校を出た時、あれだけ重く感じた足が今は少しだけ軽い。ここまでの距離何もせずにただ座っていれたせいか、彼女のおかげか、それは定かではない。
そう言えば、後々わかったことがある。町田が電車通学じゃなかったこと。もっと言えば最寄りが梟谷南で正反対だったこと。わざわざ俺にために遠回りしてくれたこと。そんなこと全く知らなかったし、全然感じ取らせてはくれなかった。
そのことが俺の中で、彼女に対する気持ちが変わり始めたきっかけだったのかもしれない。