年寄りってのは昔話が好きでな。俺もまた、その内一振って訳だ。
さて、今日は何を語ろうかね。
そうだなぁ…もう随分と共に居るような感覚をくれる、愛しい者の事を。
今でも疑問に思う事が多々あるんだぜ。あの時確かに君へ尊敬の意を向けていた…いや、それは今とて同じ事か。そんな君と俺が、何故今こうした関係を結べているのかってな。
俺の見た君の姿は、出陣や遠征に慌ただしく過ごしながらも本丸の皆と本当に楽しそうに笑い合っていた。君と話している奴等も心底楽しんでいる、そういう表情をしていたんだ。そこに俺も交ぜてほしくなった、それが本丸へ行く事になる切っ掛けだな。
君を見掛けたのは偶然散歩していた時だったか…あの刻には我ながら感謝しておきたいくらいさ。
そこに交ぜて貰えてから暫く、俺がこの身で顕現して以来味わった事の無い体験を幾つもさせて貰った覚えがあるぜ。
君と話せていた期間としては然程長くないのかもしれんな。長期の遠征で本丸を出て行った君が帰城した日の感情は未だ薄れる事無く俺の芯に残っている。
それからは…まぁ何だ、何となく君がまた何処かへ出て行きそうな予感があったんでな。突然君の部屋の障子を破ってみたり幾つか悪戯を仕掛けたんだったか?
当時は随分と宵っ張りの君、そして夜に眠る事を嫌う俺、二振で何でもない事を話し合ったり互いに夜を更かしたり…と、あの刻限を楽しむ事が出来たのも久々だったぜ。君との信頼関係を築いていく事に、そう時間はかからなかったな。
あの頃は俺の思考がどうにかしていたからなぁ…それによって君を悩ませた事もそうだが、早く君の言う通りにしておけば良かったと今でも後悔が付いてくるくらいさ。
心を表す言葉を欲した時の、君の困った顔も忘れられんなぁ…告げて貰えて、告げる事が出来て良かった。
今でもやはり夜が得意じゃないってのは変わらんが、傍に君の存在があるならばそれだけでも確かに当時とは違う感情だ。
君が在るからこそ、この俺が付喪神として存在し、他の仲間も含め共に幸福を感じる事が出来ている。世界の見方が少し変わったようなもんだ。
日々への小さな感謝は忘れたくなくてな。これからも何時だって君に感謝している事を覚えていてくれるかい。
昔話だけに収まらず、今でも君が仲間と話す光景に目を奪われる事は知っているか?あの頃の君と、今の君の姿は変わらないままだぜ。あぁ勿論他意は無いんだ。
皆の前では普段通り美しく振る舞う君が時折俺に見せてくれる愛らしさ、まぁ伝える度に否定されたり首を傾げられたり、挙句その言葉自体の無視をされる始末だが。出来れば、愛らしさを見せるのは俺だけにしてほしいねえ。
そんな何気無い日常だって、とても好いているものの内一つさ。時にはふざけながら、時には真面目に話を聞いてくれる君を頼りにしてるんだ。俺の自慢の、愛し一振。
これからも俺の一等は、君だけに。
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