継がれるなみだ
部屋を出る直前に呟かれた「美華を頼む」と言う言葉、それに疑問を抱くのは当たり前だった。あれだけ敵視していたあたしに頼むなんて、世界がひっくり返っても有り得ないだろうから。最後まであたしに任せるんじゃなくて、最後は自分の手で守り抜くんだろう、と思ってた。その役割を譲る気は毛頭ないんだけれども。――だからこの現状と、美華の
「止めてよ!どうして…」
現状への理解と、目の前に立ちはだかる二人との意思疎通を叶えた美華とは異なり、ムーンはそれらに頭が追い付いていないらしい。目の前には、ブレスレットを装着したウラヌスとネプチューンが不敵な笑みを浮かべている。先に出た筈のプルートとサターンは、目の前の二人によって消されてしまった。星の輝きが消失する気配を、美華とヒーラーが感じ取ったのだから間違いではないだろう。
それぞれの前に半透明の盾を翳す美華の一方で、ファイターはその二人の攻撃をいなす事しか出来ない。そんなファイターの助太刀をしようにも、そのタイミングをずらす様にネプチューンが攻撃を繰り返すのである。――思わず、笑みを浮かべながら舌打ちを響かせる。その音と呼応する様に、ネプチューンも薄く笑みを浮かべた。そして、語り掛ける様に薄い唇を動かしたのである。
「…苦しまないようにスターシードを奪ってあげましょう」
「あたし…信じてる。ウラヌスとネプチューンのこと」
「――そりゃどうも」
何時もの優しさなど垣間見えないネプチューンの声色は酷く冷たく、その時の彼女の動作はやけにゆっくりに見えた。それと同時に、美華は右手に魔力を集中させる。――これから来るのは、恐らく「
「……お前は馬鹿か?信じているだと?この期に及んで。この二人に仲間が消されるのを見たはずだ、これが現実だ。…まさか、まだこの星が助かるとでも思っているのか?」
「――思ってるよ」
ギャラクシアのムーンを馬鹿にした様な問い掛けも、本人は当たり前かの様に肯定してみせた。その真っ直ぐな瞳や姿勢は、昔と何も変わらない。元気で、馬鹿で、お転婆で。決して仲間を見捨てたりはしない偽善の塊の様な少女だ。――けれど、そんなうさぎだからこそ、わたしは夜天くんとの間で揺れてしまった。多分これを言ったらうさぎは謝り倒すし、そんなうさぎに夜天くんはイライラするんだろうけど。…ごめんね、夜天くん。どうか嫌いにならないで欲しい。
「スターシードを取るのは後だ。――こいつらに現実と言うものを思い知らせてやれ!」
きっとあなたの事は守るから、わたしが消えてもどうか、なかないで。
嘲笑う様なギャラクシアの声と共に弾けた光は、美華らを散り散りにさせる効力を持っていた。――何処まで飛ばされたのかは分からないが、周囲は闇に包まれている。また夜目も効いておらず、この場に飛ばされてからさほど時間は経っていないらしい。軋む身体に鞭を打っては溜め息を吐き、美華はボサボサになった前髪を手櫛で軽く整える。
周りには誰も居ないと思われたが、どうやらあまりにも気を抜いてしまっていたらしい。――刺される様な殺気を感じ取り、美華は思わず身体の前で両腕を交差させた。それを壊す様にぶつけられた筋肉質な脚は確かに痛覚を与え、彼女はふと顔を歪める。しかしその隙に浮かんだ笑みは、目の前の相手――ネプチューン――に視認されてしまっていたらしい。
「ネプチューン…」
「――よく受け止めたわね。まだ、夜目は効いていないんじゃなくて?」
「…わざとらしい殺気のおかげだよ」
「……まあ」
腕に付いた砂埃を軽く払いながら、美華は煽る様な言葉を口にする。それを受けたネプチューンは目元に暗がりを見せつつも、ゆるり、と笑みを浮かべてみせた。――ジャリ、と重心を動かす音が響く。それと呼応する様に、ネプチューンもキィ、と地面とヒールを擦らせた。まるでそれが合図であった様に、双方は攻撃の一手を互いに向けたのである。
タリスマンである鏡を取り出し、ネプチューンはその鏡面を美華へと向ける。それを結界で防ぎつつもそこから抜け出した美華は、魔力を纏わせた刀でネプチューンに一太刀を浴びせたのだ。――ネプチューンの技はすべて中距離、遠距離を得意とする攻撃ばかりだ。近距離にさえ持ちこむ事が出来れば、勝機はある、と思う。
「……本気なの?」
「ええ」
「うさぎが、どれだけ泣いても?」
「――私は、はるかと美華がいればそれで良い」
ネプチューンは、美華の一太刀を鏡の柄で受け止めている。双方の力が拮抗しているのか、それらが交差された箇所からはギリ、ギリ、と耳に悪い金属音が軋む様に響いていた。それと混じる様に紡がれた言葉に瞳を丸くするも、美華は諦めた様にきゅう、とそれを細める。――一度、はるかから聞いた事がある。みちるちゃんは「はるかのいない世界なんて守ってもしょうがない」と思ってるらしい。その中に、いつの間にかわたしも入っている事は少し、夢見心地にも思えるけれども。
犠牲になっても良いんだね、ネプチューン。どう足掻いてもはるかと一緒に死なせてさえくれないんだもんね、みちるちゃん。ならせめて、はるかと逝かせてあげなきゃ。――そう心を決めた瞬間、美華の背後から鋭利な光線が伸びる。それは真っ直ぐ、ネプチューンの鏡へと届き、その武器を弾き飛ばすに至ったのである。
「美華!」
「ヒーラー…!」
思わず後ろを振り返ると、そこにはスターエールをネプチューンに向け、そちらに殺気を向けるヒーラーが立ちはだかっていた。反対方向から合流したウラヌスを追い掛けていたらしいムーンらも、美華、ヒーラーと合流する事を叶えたのである。――美華を庇う様に前へと出たヒーラーは、再びスターエールをネプチューンに向ける。しかし、それと同時に紡がれたウラヌスの言葉に同調するよう、喉を震わせて
「…本当、ギャラクシアを倒す人の言葉とは思えませんわね。私達に敵わない人がギャラクシアに敵うと思っているのかしら?」
「だからお前らは甘ちゃんなんだ。――だからお前達のプリンセスも守れなかったんだ!」
「ッ、……あんたに、何が分かるって言うのよ!」
一喝とも言えるその言葉に、ファイターはウラヌスへと拳を振り翳す。それと同時に、ネプチューンはヒーラーに鋭い蹴りを喰らわせようと片足を振り翳した。しかし、その一撃をスターエールにて受け止めたヒーラーは仕返し、と言いたげに技を纏った手の平で拳を作り、それをネプチューンへと振り下ろす。その隙に入れ替わったメイカーは、美華とムーン、ちびちびを守る様にヒーラー同様、痛むくらいにスターエールを握り締めていた。
何度も撃ち合い、時折掠める拳に、微かにファイターの血液が付着する。それを振り払う隙を突いた彼女の拳は、明確にウラヌスの鳩尾に埋め込まれていた。そんな腹部の圧迫感に血を吐き出すも、ウラヌスはゆるり、と口角を上げる。そして唇を動かした。
「…やれば出来るじゃないか」
「――え?」
「……止めて…、もうこんなこと止めて!」
「……そうだな、もう終わりにしよう」
――最後の最後に優しくして、それでも厳しくしているつもりのウラヌス。カウンターを狙う事だって出来たはずなのに、決してそれをせずに距離を取る事で終わった。――その違和感に気付いてしまったファイターは、ウラヌスと距離を取った後もその疑念を抱いたままである。しかし、そんな感情を取り払う前に、ウラヌスは再び声を響かせる。手の平から漏れる眩い程の光は、襲い掛かる波音は、確かに美華らに狙いを定めていた。
「――そうね」
そして、二つの技に直撃した美華らは、再び地上へと投げ出される事になったのだ。
次に目が覚めたのは瓦礫の上だった。銀河TV局は原型を留めていない、ただの瓦礫と化しており、それが二段に分かれて重なり合っている。その上の段に、ギャラクシアは威圧感を纏いつつ立ち塞がっていた。嘲笑に混じる鋭い殺気に思わず目を細めるも、美華に加えてスターライツはムーンとちびちびを守る様に、その前に立ちはだかる。――そんな中でもヒーラーの不満気な視線はわたしに注がれていて、多分、守らせろよ、とでも言いたいのかな。でも、ギャラクシアがこうなってしまったのは、あの人を独りにさせてしまったのはわたしだから。今だけは向き合わせて欲しい。
「…どうだ?甘い夢から覚めたか?」
「夢なんかじゃない!絶対!」
「――愚かな。周りの街を見るがいい」
見下ろす形で美華らを嘲笑う様に、ギャラクシアは視線を周囲を向けるようにと促した。その時、視界いっぱいに広がった光景はあまりに絶望に
そんな光景に瞳を奪われてしまえば、明確に響くヒール音の原因が疎かになる。その原因――ウラヌスとネプチューン――は虚ろな双眸を携えながら、両腕に填められたブレスレットの宝石部分を美華らに向けた。漆黒の空を割る様に落ちる雷が、彼女らの逃げ場を失くすのだ。じり、と僅かに足を後退させた瞬間、ヒーラーは美華の前へと割って入り、もう離さない、と言いたげにその細い手首を掴む。――死ぬ時は一緒よ、と
「やれ」とギャラクシアが囁く。その瞬間に美華は双眸を細め、己の運命を受け入れた。しかしその運命が訪れる事はなく、ブレスレットから放たれる光弾は、迷う事なくギャラクシアの身体に衝突したのだ。――ギャラクシアの嬌声が響き渡る。しかしその時間がどれだけ長引いても、その光弾が弾け飛んでも、彼女の体内からスターシードが現れる事は無かったのである。その事実に美華、そしてウラヌスとネプチューンは瞳を丸くさせた。ほくそ笑むギャラクシアのそれとは対照的な表情だった。
「ど、うして…」
「そんな…スターシードが現れないなんて…!」
「直撃したはずだ!奴には、スターシードがないのか……?」
「まんまと騙されたぞ……まったく。この星の連中は私を楽しませてくれるな!」
ギャラクシアの体内にスターシードがない理由は、前世で共に過ごしていた美華でさえも分からなかった。今、その理由を探し当てる意味もない。これまでのウラヌスとネプチューンの行動は、意味を失ってしまったのだから。一度は優性になった筈の立場も、今現在、ギャラクシアの言葉によって地獄に落とされる。――なんの為に仲間を殺してこの地位に就いたのだ。なんの為に、ギャラクシアに命を授けてしまったのだ。もう、手立ては無い。――そう言いたげに、ウラヌスとネプチューンの身体はすっかり脱力してしまったのである。
「これまでね……」
「僕達にあるのは、裏切りの血で汚れた手…」
「……分かってるわ」
「すべては無駄な足掻きだった訳だ」
脱力しきったウラヌスとネプチューンの姿に、ギャラクシアは歪んだ笑みを浮かべる。その表情に激しい苛立ちを感じた美華は、ギャラクシア目掛けて、手の平から光線を放った。しかし、力任せなそれはギャラクシアに当たる事は無く、ギャラクシアの後ろにある瓦礫を壊すに留まったのである。掠りもしなかった自身の攻撃に舌打ちをしつつも、美華は笑みを浮かべたままのギャラクシアを睨み上げた。その視線に気付いたギャラクシアは、漸く唇を動かす。
「お前も分かっていただろう、こうなる可能性を。――のう、スカイ」
「……先に、地球に手を出したのはそっちでしょう」
「この青く、美しい星にこの私が手を出さぬとでも思っていたのか?――夢物語だな」
そうして紡がれた言葉に、美華は思わず血が逆流する感覚に襲われた。それを発散する様に再び魔術具を顕現させ、足元に魔法陣を展開させる。それを中心に魔力が混じり合った風が巻き起こると、それは倒れ込んだウラヌスとネプチューンを囲う様に広がって行ったのである。どうやらそれはギャラクシアへの目くらましの効果も孕んでいたらしく、美華はその隙を突いてギャラクシアに攻撃を仕掛けたのだ。――その攻撃によって、溜められていた光弾は爆ぜ、そんな現状を振り切る様に美華は透け掛けているウラヌスの身体を抱き起こす。
「はるか…」
「ッ、……美華、そんな顔、…するな」
「だって、見守るしか、――」
そんな泣き言を言う美華の首筋に腕を絡め、随分と弱まったその力でそっと抱き寄せる。その手首から、既にブレスレットは消え失せていた。――見守る事しか出来ない?…馬鹿言うなよ、それを望んだのは僕だ。それを押しつけたのは僕と、みちるだろう。それが分からないほど馬鹿じゃないだろう。なのに、お前は泣くのか。僕らの守り方をちゃんと理解するくせして、それでもまだ「どうして」と嘆くのか。
本当に馬鹿だよ、美華。
「……ずっと、探していたんだろう。こいつを、生まれた時から、ずっと」
「え…?」
「…美華、自分の為に生きろ。……生きてくれ」
「……は、るか」
「――お前は『スカイ』じゃない、だろう。ずっと自由、だよ」
セーラームーンの為に強くなろうとしてたのは、嘘じゃないだろう。置いて行かれたくない、と言ってたのも嘘じゃないはずだ。でも本音は、もっとも優先したかった理由は、その二つのどちらでもないんだろう。こいつを、セーラースターヒーラーを、圧倒したであろう強さを取り戻したかったんだろう。――でも、美華は「スカイ」じゃない。宇宙すべてを包みこむ力は、今の美華ではきっと持て余す。
幼馴染だからと言って、ずっと、お団子頭を唯一にしなくても良いんだ。彼女は、お前のプリンセスでも何でもないのだから。もう、誰かの為に生きなくても良い。――そう、伝われば良い、と僕はそっと美華を見上げる。
「…ヒー、ラー」
「……なに、よ」
「美華のそば、に、いてやって、くれ。こいつは、寂しがり屋だから、……な」
「…理解してるわ」
「手を離さずにいて、やって、…ほしい。すぐ犠牲になる、ばか、だから」
「そんなのぜんぶ、ぜんぶ、――分かってるもの」
――睨みつけるように眉を顰めて、唇を噛み締める。――そんなヒーラーの食い気味な返答に、僕は安心したのだと思う。それを理解して、消えてしまうのなら仕方がない。それが「運命」とやらなんだろう。…なあ、美華。お前、今まで自分の為に何もして来なかっただろう。そんなお前が嫌いだった。そんな僕の気持ちを理解しているはずなのに、ただ緩やかに
思わず笑みを浮かべ、ウラヌスはネプチューンに手を伸ばす。ここまで段差を恨めしく思ったのは初めてである。そんなウラヌスに気付いたのか、美華はほんの少しだけ、ウラヌスの身体をネプチューンの方へと寄せた。腹部の摩擦なんてどうでも良かった。粒子へと変わる直前、漸く触れる事を叶えた互いの指先は互いの温もりを愛しく想い、そして消えた。――しかし、その余韻に浸る時間など、ギャラクシアは与えてくれないのである。唐突に、視界に広がる眩い程の
「――下がって!」
しかし、その直後に響くファイターの声音に、美華は我に返る。どうやらそれは他の者達も同じであったようで、ヒーラーは美華を抱えて、メイカーはムーンとちびちびを守り、ファイターはそれら全てを守りながら瓦礫の穴へと身を潜める事になったのだ。――煙が舞う中そこに集まった戦士らはボロボロで、魔術で治癒しようと傷痕に手を翳す。しかし、その傷が癒える速度はあまりに遅く感じた。その事実に、眉を顰める美華にいち早く気付いたヒーラーは、瞳を細めつつその姿を覗き込む。
「……美華?」
「……魔力が少ない」
「…身体は?」
「身体は何とも。……でも傷、あまり治せないから、その、――」
美華が手を翳した箇所には朧気な空色の光が纏われているが、優しげなそれとは裏腹に傷痕が治る気配は無い。――いや、治っているのかもしれない。しかし、それが完治するには多大な時間を要するのであろう。両腕を覆うアームカバーを捨てれば、治る傷もある筈だ。しかしそれをしてしまえば、ギャラクシアに対抗する力は半減してしまうのである。それを言葉少なに伝えようとする美華に僅かな苛立ちを抱いたヒーラーは「ばか」と呟き、指先にて美華の額を弾いた。目の前で、痛みに悶える美華はこの際無視である。
「〜〜っ、何すんの!」
「こっちの台詞よばか美華。ばかだばかだとは思ってたけどここまで救いようのないばかだとは思ってなかったわ、ほんッとばか」
「な、何回ばかって言うのばか!」
「別に、傷を完治させろなんて言った覚えは無いもの。自己犠牲も程々にして」
――また始まった……。――そんな、どこか緩さが増したこの空間も、ヒーラーの最後の一喝で引き締まる事となった。どうやらそれは美華も同じらしく、ぐっ、と歯を食い縛るその姿は確かに図星を突かれている。そんな光景にファイターとメイカーも口を出す事は憚られ、ムーンはちびちびを抱えたままおろおろ、と双方に視線を彷徨わせて終わった。
そんな静寂の中、ギャラクシアの攻撃も止まっている。恐らく、美華らの次の一手を待ち侘びているのだ。そんな期待を向けられている筈の美華は頬をむくれさせながらも、ヒーラーと視線を合わせようとはしないらしい。――拗ねているのだ。しかし、そんな美華の様子に早くも折れてしまったヒーラーは、溜め息を零して再び美華の顔を覗き込んだ。
「……あたしの為に力を使わないで。その力は、自分を守る為に残しておいて」
「……だって、わたし、ヒーラーがいなくなったら…」
「…いなくなったら?」
「――いなくなったら、頑張れないもん」
しかし、説得しようと心得た当人は、目の前で拗ねている少女から渾身の一発を喰らってしまったのである。エメラルドの様にキラキラ、と煌めく双眸をぱちくり、と何度も瞬き、漸く美華の瞳がそこに映る。その瞬間、ヒーラーは思わず笑みを吹き出すに至ったのである。先程までの険悪な空気は何処へやら、しかし、そんな疑問を抱いているのはどうやら美華ただ一人であるらしい。ちらり、と周囲に視線を寄越しても、何処か微笑ましそうに笑みを浮かべる仲間ばかりだ。
「…そうよね。そう言えば空野は甘えるのが大の苦手だったわね」
「へ?」
「弱みを見せるのが嫌い、だったかしら?」
「……急になに」
「美華は昔から不器用なのよね……」
「な、なんなの」
「美華はあたし達がだいすきね、って話よ」
ファイター、メイカー、ムーン、と納得した言葉遣いで何度も相槌を打つが、その言葉達が向けられる美華にはその意味が伝わっていない。しかし、極めつけ、と言いたげに吐き出されたヒーラーの言葉には、美華はじわり、じわり、と頬を赤らめた。その表情を視界に収めたヒーラーはゆるり、と口角を和らげる。そして、色素の薄い美華の髪を一度だけ軽く撫で回した。
――これだけであたしの気持ちが全部届けば良いのに、なんてばかげた事はもう言わないわよ。
「…あたし達もあんたがだいすきなんだから、魔力は最後まで溜めていて。今の為じゃなくて、これからの為に使いなさいよ。――いい?」
「……ヒーラーってやっぱりかっこいいね」
「あんた何の話してんの?」