※これの続き
「非礼を詫びよう。すまなかった」
「あの、頭をあげてください」
「我々はどうにも人間の気持ちには疎い。それを言い訳にするつもりはないが、あまりに配慮がなかったと思う」
「わ、私もカッとなっちゃって……だからその、頭を……」
自分にとっては酷い言葉でも、人間ではない存在の、人間とは全く違う価値観から出たあの言葉は、もしかしたら、そう、例えるなら今日はいい天気だなあとか、明日の数学はいやだなあとか、ごく普通に生活していて、ふと考える、ふと思いつく、そんな程度の感想や感情を言葉にしただけで、他意がないどころかむしろ同情や厚意から来たものだったのかもしれない。
つい激昂して反論してしまったが、気持ちが落ち着いてからようやくそのことに思い至り、謝罪するか否か悩んでいたふみの元に、申し訳なさそうな顔をしたかふかが来たのはもう五分も前のことだった。
胸に手を当て、深々と頭を下げるかふかの体をどうにか起こそうと、躍起になるも、次々に溢れだす謝罪の言葉は止まらない。すらりとした四肢と、長い指先と、揺れる金糸、許しを懇願するかのような姿。その全てが、まるで一国の姫を舞踏会に誘う王子のように美しい。ただ、それらが全て自分に向けられていると思うと、あまりの申し訳なさにどうにかなってしまいそうだった。
「もういいんです。ちゃんと謝ってくれたし、それに、野宮先輩に悪意がなかったことにさっき気が付いたんです。私たちは価値観も違うし、仕方がないことだと思います」
だから、顔を上げてください。私の心が罪悪感でいっぱいです。ふみの心の叫びはおそらく通じていないのだろうが、かふかは渋々と言った雰囲気でゆっくりと顔を上げた。
「……すまない、謝罪だけを告げるつもりだったが聞かせてくれ。なぜ非難しない? なぜ私を糾弾しない? なぜそうして受け入れる? 私には理解できない。そうして自分を納得させているのか? それならば必要ない、好きなだけ責めたてていい。私はそれほどのことをした。それで君の気が晴れるとは思っていないが、耐えるくらいならその心の内を吐露してくれ」
「えっ、あ、あの! 私、本当にもう気にしてないですから!」
「なぜ?」
ずい、と顏を近づけて、先ほどからさらけ出している本心を否定するかふかに、今度はふみが疑問をぶつけたくなった。こんなにも分かり合えないものなのかと。これほどまでに価値観の相違があるのかと。
「な、なぜって言われても……悪夢って言われたことは少し悲しかったけど、よく考えたら別に先輩たちのことをどうこう言われたわけじゃないし」
「つまり君は君自身のために怒ったわけではないのか?」
「え、いや、先輩たちを悪く言われたら悲しいって理由なので私のためじゃないですかね……」
しばらく考え込む様子を見せたかふかを、ふみはぼんやりと見つめる。雲一つない夏の晴天を切り取ったような瞳と、目を縁どる長い睫毛、つるりとした肌に、生を感じさせる赤い唇。どこをとっても美しい。そんなふみの考えをかき消すかのように、凛とした声が響く。
「君は、清らかだ」
「……え?」
「ニノマエフミ、私は君を愛そう」
かふかはそっとふみの手をとり、口づけを落とす。あまりに唐突な告白と、あまりに唐突な行動に、固まるふみを置き去りに、かふかは甘く微笑んだ。
「私が君の盾となり、剣となろう。君が拒絶し、君を傷付けるものを屠ろう。君が愛し、君に愛されるものだけを受け入れよう。そう思えるほどに、そう願うほどに、私は君を愛したい」